するりと落ちた”初勝利”「判断に迷った」 課題浮き彫りも…初のJ1で感じた「この舞台で戦える」

水戸のDF大森渚生と川崎MF脇坂泰斗が振り返った
昇格組の水戸ホーリーホックが90分間での初勝利をあと少しで逃した。1日にUvanceとどろきスタジアムで行われた川崎フロンターレとのJ1百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST第4節の後半終了間際に2-2に追いつかれ、PK戦の末に2-4で敗れた。同点の場面を巡る水戸の大森渚生(しょう)、川崎の脇坂泰斗の駆け引きを再現しながら、クラブ創設32年目で初めてJ1の舞台に臨んでいる水戸の現在地を追った。(取材・文=藤江直人)
【PR】ABEMA de DAZN、2/6開幕『明治安田Jリーグ百年構想リーグ』全試合生配信!毎節厳選6試合は無料!
クロスは思い描いた軌道では飛んで来なかった。必死に守る水戸ホーリーホックの大森渚生にとっても、そして攻める川崎フロンターレのキャプテン脇坂泰斗にとっても、土壇場で想定外の事態が起こっていた。
試合は水戸が1点をリードしたまま、4分台が表示された後半アディショナルタイムも3分に達していた。
川崎の伊藤達哉が主戦場の右サイドから真ん中へシフト。左サイドバックの三浦颯太へパスを展開した流れのなかで、トップ下から右サイドに生じていたスペースへ移った脇坂はこんな思いを抱いていた。
「颯太(三浦)のクロスが今日は鋭くなくて。キーパーにキャッチされるとか、そういうのがあったので」
前出の場面でも懸念が現実のものになった。伊藤からパスを受けた三浦が選択したのはアーリークロス。ボールは真ん中にいたエリソンや河原創の頭上をゆっくりと越えていく。落下点のファーサイドにいた脇坂が続ける。
「あのシーンもちょっと颯太らしくなかったというか。ただ、逆に言えば時間があったので」
脇坂と同じ思いを実は大森も抱いていた。左サイドバックで先発し、最終ラインを5枚にして逃げ切ろうとした後半45分からは左ウイングバックにポジションを移したばかりだった26歳のレフティーが振り返る。
「あそこにスペースがぽっかり空いていたなかで、変に時間があって難しいボールだったので」
それまで伊藤がいた右サイドのスペースに、脇坂が流れてきているのに気がついた大森は、帰陣するスピードを速めて脇坂の前にポジションを取った。しかし、その後の対応でほんのわずかだけ逡巡してしまった。
「コーナーキックに切るのもちょっと難しいと思いましたし、大きくクリアを振ったらおそらく脇坂選手がぶつけに来るだろうし、そうしたら(ゴールに)入るかもしれないとか、そういうところまでよぎっていました」
クロスが山なりの軌道を描き、考える時間が生まれた分だけ守備での選択肢を絞りきれなかった。そしてボールが落下してくる刹那に、大森は一瞬だけ首を左に傾けて視線を送り、背後に脇坂の姿を確認している。
次の瞬間、大森は視線をボールの軌道に戻した。わずかな間に生まれた隙を脇坂は待っていた。
「僕が後ろにいる、というのを相手がわかっているのを僕はわかっていたのでスッと前に入れました」
目の前に突如として脇坂に飛び込まれた。それまでは「流せたらベストだったんですけど……」と自身も、そして脇坂もボールに触れずに、ボールを流す展開を思い描いていた大森はとっさにプレーを切り替えた。
落ちてくるボールをクリアしようと右足を振り抜いた。しかし、攻防の主導権はすでに大森から離れていた。脇坂にブロックされたボールはその場に弾み、跳びあがっていた分だけ大森の反応も遅れた。脇坂が言う。
「そこからあとは相手のキーパーが前へ出てきているのがわかっていたので、ちょっとループ気味にシュートを打つというか、(相手の)残り足に当たらないように心がけながらうまく決められました」
水戸のキーパー西川幸之介が間合い詰めてくれば、着地した大森もシュートをブロックしようと必死に左足を伸ばしてくる。それでも冷静さを失わなかった脇坂が放った一撃が、無人のゴールへ吸い込まれた。
仰向けで悔しがる西川の横で、ピッチに突っ伏してしまった大森は脇坂との攻防をこう振り返った。
「判断にちょっと迷ったなかで前に入られたので、何とかボールに触ろうとしたところで(シュートを打たれた)という感じでした。駆け引きのところで(相手が)うまかったというか、上回られた印象です。ただ、もう起きてしまったことなので、最後の時間までをどのようにプレーするかを考えていました」
決して下は向かない。2-2のまま突入したPK戦。後蹴りの水戸の3番手を担った大森はゴールの右隅へ、対峙した川崎の守護神スベンド・ブローダーセンが一歩も動けない強烈なシュートを突き刺した。
しかし、クロスバーに当てた2番手の多田圭佑に続いて、水戸の4番手、キャプテン飯田貴敬が左隅を狙った一撃をブローダーセンがセーブ。4人全員が成功させた川崎に2-4で敗れてしまった。
「周りがどう見ていたのかはわからないですけど、PKに関しては1ミリも外す感覚はありませんでした」
PKに関して胸を張った大森は、前半45分、同アディショナルタイムの49分にいずれも加藤千尋が決めた2点のリードを守れずに喫した百年構想リーグでの3敗目を、手応えと課題をまじえて振り返った。
「自分たちがやるべきプレーをしっかりとやればこの舞台で戦える、という点は前向きになれますけど、だからこそ誰が見ても今日は勝ち点3で終わらなきゃいけなかった。勝ち点を1にしてしまったのは僕個人も多いに反省しなきゃいけないし、チームとしてどのような戦い方をするのかも、もう一度見直さなきゃいけない」
開幕節で東京ヴェルディに1-3で敗れた水戸は、第2節以降はFC町田ゼルビア、ジェフユナイテッド千葉、川崎とすべてPK戦に突入。昇格組の千葉を5-3で破ったものの、90分間での勝利はまだ手にしていない。
昨シーズンに栃木SCから加入。すぐに左サイドバックのレギュラーを射止めた大森は、リーグ戦でただ一人、全38試合に先発して3420分にフルタイム出場。J2優勝と悲願のJ1初昇格の原動力になった。
2位のV・ファーレン長崎と勝ち点70で並び、3位の千葉とのそれは1ポイント差。未曾有の大激戦を制した手応えは「優勝してここに来ているので、もちろんあります」としながら大森はこう続けた。
「J1の基準はさらに高い、というのはわかっていましたけど、実際に戦ってみないと感じられない部分もある。やれるという部分と、それでも勝ち切れていないところはしっかりと見つめなきゃいけない」
武器とする粘り強さはJ1の舞台でも発揮できている。ただ、すべて追いつかれた末のPK戦だった点に課題が見え隠れする。あと少し、もうちょっと、という壁をいかにして乗り越えられるか。選手個々で、そしてチーム全体で思考回路をフル稼働させながら、水戸は7日の次節で浦和レッズのホーム、埼玉スタジアムに乗り込む。

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















