J1超えの動員力、影を潜めた「独自路線」 急成長したMLS、世界が注目する「ビジネスモデル」

2026年ワールドカップの開催を目前に控えた2月21日にアメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)の新シーズンが幕を開けた。これに先立ち、日本の報道陣向けにオンライン取材会が開催された。

MLSのリアルに迫る【写真:AP/アフロ】
MLSのリアルに迫る【写真:AP/アフロ】

MLSの平均観客動員数はJ1を上回った

 2026年ワールドカップの開催を目前に控えた2月21日にアメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)の新シーズンが幕を開けた。これに先立ち、日本の報道陣向けにオンライン取材会が開催された。

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 アトランタ・ユナイテッドFCで挑戦を続ける富樫敬真、そして今季から参戦した黒川圭介(D.C.ユナイテッド)が登場。さらに、MLSのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼チーフ・コミュニケーション・オフィサーであるダン・コートマンシュ氏も顔を揃えた。

 コートマンシュ氏は、いまや世界で最も急速に成長しているプロサッカーリーグとしての自負を隠すことなく、MLSの現在地について熱弁を振るった。ワールドカップ開催というまたとない好機に乗じ、日本人選手の活躍を通じて日本国内でのMLSの認知度を一気に高めたいというリーグ側の意図は明確である。

 しかし、日本におけるMLSの立ち位置を冷静に見れば、ヨーロッパ主要リーグに比べて認知度が高いとは言い難い。かつてのアメリカのサッカーといえば、PK戦の代わりに35ヤード地点からドリブルしてシュートを打つ「シュートアウト」を採用するなど、「我々の知るサッカーとは別物」だった。

 ところが、現在のMLSはかつての「風変わりなマイナーリーグ」ではない。多くの観客を動員する巨大なスポーツエンタテインメントへと変貌を遂げている。2025年シーズンの平均観客動員数は2万1988人を記録し、J1リーグ(2025年の平均は2万1246人)を上回る規模に達した。

 ルール面においても、かつての「独自路線」は影を潜めた。むしろ、現行のMLSが試験的に導入しているルールは、その合理性ゆえに世界的に注目されている。

 たとえば、交代を命じられた選手が10秒以内にピッチを出なければならない「10秒ルール」や、負傷者が15秒以上ピッチに倒れていたとき、ピッチ外に出た後2分間待機しなければいけないルールなどは、意図的な時間稼ぎを排除しようとしている。

 一方で、その経営・組織モデルには、アメリカスポーツ特有の極めて独特な発展が見られる。最大の特徴は、選手が各クラブではなく「リーグ(MLS)」と直接契約を結ぶ「シングル・エンティティ(単一事業体)」という構造である。

 選手はリーグという一つの会社の従業員であり、そこから各チームに「割り振られる」形をとる。各チームは、「ベッカム・ルール」と言われる別枠があるにしても、総年俸のキャップ(上限)が決められている。これは「リーグ全体の戦力バランスを均等化し、特定クラブの独走や破綻を防ぐことで、リーグ全体の価値を持続的に高める」という合理的な考え方に基づいている。

 また、選手の「外国人枠」や「ドラフト指名権」といった権利そのものが、トレードの対象として売買されるのもアメリカらしい。資金力のあるクラブが、金銭を対価に他クラブから「強化の権利」を買い取るこの仕組みは、ヨーロッパの自由競争モデルとは一線を画すビジネスライクな手法だ。

昇降降格がないリーグの経営戦略

 そして、MLSが他国のリーグと最も異なる決定的な違いは、「昇降格制度が存在しない」という点だ。どれほど成績が不振であっても、下位リーグへ転落するリスクはない。この「出口」の安定こそが、投資家たちが巨額の資金を安心して投下できる最大の要因となっている。結果として、リーグには莫大な資金が循環する。

 富樫は取材会のなかで、「アウェイへの移動はすべてプライベートジェット」という、Jリーグでは考えられないスケールの大きさを語った。この贅沢な環境も、ビジネスとしての安定性が担保されているからこそ可能になる。

 観戦環境もまた独特だ。スタジアムにあるのは、あくまで「サッカーを素材にした極上のエンターテインメント」を楽しむ空間になっている。もちろん、いいプレーには惜しみない拍手が贈られ、審判や相手へのブーイングも存在するが、それはエンターテインメントの演出の一部として機能している側面が強い。

 富樫が所属するアトランタ・ユナイテッドFCは、この「ビジネスとしての成功」を象徴する人気クラブである。過去10年のうち8年で最高平均観客動員数を誇り、2018年には1試合平均5万3002人を記録した。

 人気の理由は、アトランタが展開してきた緻密なマーケティング戦略にある。スタジアム内の飲食を、ホットドッグ2ドル(約310円)など「ファン・ファースト」として極めて安価に設定し、地元の鉄道文化を象徴する儀式を試合に取り入れるなどして、ファンの心を掴む工夫を徹底してきた。サッカーを「一部のファンのもの」から「地域のアイデンティティー」へと昇華させた功績は大きい。

 もっともMLSは選手個人が安穏と過ごせる場所ではない。全選手の年俸が1ドル単位まで公表されており、個人の昇格、すなわち「這い上がり」は過酷だ。MLSにとって、有望な若手を育て上げ、ヨーロッパのメガクラブへ高額で売却することもビジネスモデルの一つだ。個人のキャリアが「売買」される剥き出しの競争原理こそが、MLSの成長を支える原動力となっている。

 もし、このモデルによってさらなる巨万の資本がサッカー界に流入し続けるのであれば、将来的に世界のサッカー界全体がこの潮流に飲み込まれてしまう可能性も否定できない。

 しかし、果たしてそれがサッカーの正解なのだろうか。サッカーのドラマにおいて、最も大きな情熱を燃やす部分は、やはり「昇降格」という名の生存競争にあるのではないかと思うのだ。

 合理的なアメリカのシステムを目の当たりにしつつも、これまでに生まれてきたシーズン最後のドラマチックな悲喜こもごもの涙を思い出してしまう取材会であった。みなさんは、昇降格のないサッカーを、どう思われるだろうか。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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