クラブ史上初の2冠…引退表明のヒロイン 8年在籍で有終の美「ほんまに報われたなぁ」

全日本女子フットサル選手権大会の決勝戦が行われた
勝負を分けるゴールを挙げたヒロインは、試合後の表彰式を終えて金メダルをぶら下げても、自身の身に起きたことに戸惑いの表情を浮かべた。
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2月23日に行われた第22回JFA全日本女子フットサル選手権大会の決勝戦で、SWHレディース西宮(兵庫)とバルドラール浦安ラス・ボニータス(千葉)が対戦。両クラブが決勝を戦うのは、これで3年連続のこと。西宮にとってはクラブ史上初の女子Fリーグとの2冠がかかった一戦で、浦安にとっては大会2連覇がかかった一戦だった。
試合は立ち上がり3分に動く。攻勢に出た浦安が、フットサル女子日本代表FP江口未珂がベンチのチームメイト達も「エグイ!」と叫ぶような目の覚めるスーパーミドルシュートを決めて、先手を取った。しかし、西宮も譲らずに第1ピリオドの終盤にFP斉下遼音が、角度のない位置から同点ゴールを決めて試合を振り出しに戻す。
どちらも譲らぬ好ゲームが、どうなっていくのか。そんな期待感はハーフタイムが明けた後に薄らぐことになる。この試合を前に中心選手で今大会3試合連続ゴール中だったFP塚本夏希が負傷離脱した浦安の米川正夫監督は、後半の開始と同時にFP宮原ゆかりをGKに据えてパワープレーを仕掛けた。このパワープレーは5人で数的優位を作り、攻め込むことも目的としたものではなく、後方でボールを回して時間を削るためのものだった。1-1というスコアもあり、西宮も無理にはボールを奪いに行かない。そのため浦安が最後尾のFP伊藤果穂を軸に横パスを繰り返すなか、時間が過ぎていった。
過去に何度も対戦している両チームの指揮官は、互いの手の内を知り尽くしている。それでも西宮の上久保仁貴監督は「ああいうパッシブな(攻めて来ない)パワープレーに対してトレーニングしていなかったので、どう決断していこうか迷いました。もちろん想定外でしたし、そこに対する準備もしてきているわけではなかったので。このまま時間を消費するのもイヤだなと思ってプレスに行かせましたが、先ほども言ったように(このパワープレーに対するプレスの)練習もしていなかったので、僕のなかではある意味ギャンブルでした」と、振り返った。
ピッチの中で「プレスをかけろ!」を意味する「出ろ!」という指示を受けたのは、キャプテンのFP高尾茜利だった。異様な試合展開に、スタンドが静まりかえる中で対戦相手のボール回しを追っていた高尾は、同時に相手の選手達が出す指示も敏感に聞きながら、相手の狙い所を探っていた。そのため、最初に「出ろ!」と上久保監督が言った時は、その言葉を正確に理解できなかったという。しかし、自分が最初にプレスをかけた後、バックパスに対して二度追いをしなかった際、ベンチの上久保監督が天を仰ぐような素振りを見せたことで、『連続でプレスをかけに行っていいんだ』と理解し、持ち前のクイックネスを生かしたプレスを仕掛けた。
「最後、後半10分勝負かなと思っていた。そこまではパワープレーをして、同点で終わりたかった。お客さんはつまらなかったかもしれないけれど、最後に勝負をかけようと思っていた」と、米川監督は自身の描いていた戦略を明かしたが、この西宮のプレスに浦安はボールを引っかけてしまい、ボールロストする。このボールの先にいたのが、今季限りでの引退を発表していたFP藤江沙樹だった。
8年にわたって西宮に在籍していた藤江は、決してチームの中心的な選手ではなかった。少し乱暴に言えば、相手がパワープレーをしてきた際の守備要員だった。こぼれてきたボールを藤江は30メートル近く先にある、無人の小さなゴールに蹴り込んだ。まったく動きのなくなっていたゲームが、突如動き、アリーナには大歓声が起き、藤江は歓喜の中心にいた。
試合後に「ホンマに報われたなぁという感じです」と言った藤江は、「あの瞬間、(自分たちの守備に)ちょっとスイッチが入ったと思うんです。そこでたまたまですけど、ボールがこぼれてきた。でもシュートを打つときは意外と冷静で、しっかりゴールが見えていました。ボールがゴールに入って行くのが見えたので、すごく嬉しかったです。それにこういう時に私が決めると、みんな喜んでくれるので、チームの雰囲気が変わるんです。ほかのみんなと違って、自分は点を取ることが仕事じゃないことは、自覚していたので。この最後の最後に本当に出たのは、ありがたいなという気持ちです」と、決してキャリアでも多くなかったゴールが、この大一番で出たことを喜んだ。
実際にこのゴールが持つ意味は大きかった。ハードワークを続けていた西宮は、勇気づけられた。一方、浦安は戦力差を埋めるための奇策に失敗したことで、『自分たちの戦力に不安があるなかで1点を返さないといけない』という重圧も加わった。江口やFP筏井りさという強力なタレントを抱える浦安だったが、この1点は重かった。その後、西宮は斉下がこの試合2点目を決めると、最後はGK中田凪咲もパワープレー返しのゴールを決め、4-1で勝利して昨年のリベンジを果たした。クラブ史上初のリーグと全日本女子フットサル選手権の2冠獲得を達成した。
試合の流れを決定づけた藤江は、「ほんまにこの最後の試合が、こういう形になるとは想像していませんでした。チームが勝つことは想像していましたが、自分の今のチーム内の立ち位置では、『決勝では出場機会も限られるな』と思っていたので。相手がパワープレーをしてきてくれたこと。ほかの選手が出る可能性もあったけど、バタバタして自分が出ることになったこと。ホンマに巡り合わせというか、本当にありがたいなという1試合でした」と感慨深げに話す。
そして、「持っている女じゃないですか!」と言われると、笑いながら「本当に恵まれています。昨日はこんなこと想像していなかったので。本当に最高の終わり方だなと思います。選手権、リーグ優勝の2冠は初めてなので。チームに感謝です」と語り、2冠の達成感に浸った。
(河合 拓 / Taku Kawai)




















