15年越しのカズ獲得「いつかは一緒に」 自らチケット購入…福島CEOが語る“舞台裏”

小山淳氏は2024年4月に福島CEOに就任した
福島市などをホームにJ3で12シーズン戦う福島ユナイテッドFC。58歳のFWカズ(三浦知良)の加入で、いきなり全国的に注目された。どうしてカズ獲得に動いたのか、福島とはどういうクラブなのかー。24年に代表取締役CEOに就任し、クラブのかじ取り役を担う小山淳氏(49)に聞いた。(取材・文=荻島弘一)
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カズと同じ静岡県出身の小山氏は藤枝中、藤枝東高でともに全国制覇、中田英寿、松田直樹らとともに世代別日本代表にも名を連ねたサッカー選手だった。早大時代の大けがで選手生命は絶たれたが、その後起業。2009年にJリーグを目指して藤枝MYFCを立ち上げ、初代社長に就任した。「憧れの人」カズ獲得は、15年以上も前から思い描いていたという。
「最初からカズさんに来て欲しいというのはありました。ただ、当時の藤枝MYFCは東海リーグ、Jリーグでプレーしているカズさんを誘うことはできなかった。それでも、タイミングは見ていました。いつかは一緒にやりたい。チームに来て欲しいというのは、ずっと思っていました」
2017年にはスポーツXを創業し、18年からはおこしやす京都AC(関西リーグ)の経営に参画。その間もカズへの思いは冷めずに、4年前には京都から正式オファーを出した。カズはJFL鈴鹿入りしたが、獲得を諦めることはなかった。
「鈴鹿の試合も見に行っていました。チケット買って。コンディションをみたり、プレーそのものを見たり。その生きざまを深く尊敬しているし、奇跡的なことをやっている方なので興味もありました。カズさんは日本の公共財ですから」
24年4月、福島のCEOに就任する。30人弱のスタッフとともに福島入りしてクラブの再建に着手しながらも、カズ獲得へ思いを募らせていた。鈴鹿との契約が切れるタイミングで今度はJクラブとして再オファーを出した。
「一番は、カズさんの挑戦を支援したい、伴走できる場を整えたいということ。日本サッカーがカズさんから受けた恩恵を、少しでもお返ししたいという気持ちです。もちろん、選手もクラブも成長させてもらえる。組織が急スピードで成長、進化しているという感触はあります」
カズ加入は、観客動員数やスポンサー収入にも大きな影響がある。そんな「カズ効果」を求めるのはクラブ側としても当然のこと。昨季1試合平均の観客数が2374人で、J3の20チーム中18位の福島だが、小山氏は明確に否定した。
「観客数やスポンサーというのは、まったく考えていないと言っていいです。結果として増えても、カズさんがいる期間だけ。もちろん、福島の人たちが喜んでくれていることはうれしいし、いいことをしたとは思っています。ただ、カズさんに頼って観客数を増やしても意味はありません」
観客数がJ3昇格の条件になるJFLとは違い、Jクラブでは長期に渡り安定的に観客数を伸ばしていくことが重要。カズ効果の一時的な数字は意味がない。小山氏は、本来のクラブ経営、運営とカズ獲得は「別文脈」だという。
「昨年の2374人は過去最多で、その前年よりも大幅に増えている。最多観客数も8698人で過去最多でした。一昨年はチームが好調でしたが、昨年は低迷していたのに観客が集まってくれた。スタッフの頑張りだと思います」
藤枝やおこしやす京都の経営に参画した
カズの人気とは関係なく順調に観客数を伸ばしてきた自負がある。小山氏がCEOに就任する前、23年の平均観客数は1229人でリーグ最下位だった。就任1年目に過去最多の1800人を集め、2年目で2374人と急増させた。大切にするのは地域との関わり。徹底して地域活動を続けた成果が数字に表れた。
「サッカーチームは地域とともに歩んでいくもの。地域の人たちと数多く触れ合えば、地域にとってチームが気になる存在になってくる。そういう機会を増やしていくことが、スタジアムに人を呼ぶことにもつながる。赤字を増やしても地域活動を続けるのは、そのためです」
クラブの副社長で早大時代の後輩でもある辻上裕章氏の要請で経営に乗り出した小山氏だが、決断までには相当な覚悟が必要だったという。藤枝MYFC、おこしやす京都AC、さらに海外のクラブでの経験があったとはいえ、福島の置かれている状況は特別だった。
「東日本大震災、原発事故、風評被害、もともとハンデがあることは事実です。今回引き受けるにあたっても、いろいろ勉強させてもらいました。とんでもなく重い物を感じたし、やるかどうかは悩みました」
それでも、小山氏は引き受けた。クラブが地域とともに成長していくための戦いに身を投じた。同氏が目指すクラブと福島の未来。チームはJ3で13年目のシーズンを戦うが、小山氏は世界を目指しての強い思いを語った。
「風評被害からはいまだに脱していないし、時には政治や外交の手段にまで使われています。逆に、それをポジティブなパワーとして世界に発信していきたい。震災と原発事故で傷ついた土地を、再生から未来が生まれる地域にしたい」
もちろん、チームが強くなり、J2、J1へと昇格することは大事だが、それだけが目的ではない。ともに戦えるトップチームがあり、教育の場としてのアカデミーがあり、誰もが楽しめるスポーツパークがある。そして、それが結果的にトップチームの強化につながるのだという。
「強化のために施設を作る例は多いけれど、僕は少し違っていて、子どものために施設を作ることが強化につながると思っています。決して無理をすることはなく、しっかりと10年、15年の計画で進めていきます」
カズ獲得で注目を集めてはいるが、小山氏はカズ獲得とクラブ経営は「別文脈」と言い切る。カズフィーバーとは別の次元で考えられている「クラブの将来」。58歳カズのプレーとともに、Jリーグの「百年構想」を具現化する福島ユナイテッドFCの挑戦も楽しみだ。
(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。












