鬼木鹿島に生み出された一体感 選手が口々に証言…設けられた高い基準「取り組んでいないとチームで浮く」

鹿島を優勝に導いた鬼木達監督【写真:徳原隆元】
鹿島を優勝に導いた鬼木達監督【写真:徳原隆元】

鹿島は最終節で横浜FMを下し9年ぶりにリーグ制覇

 苦しみながら勝利した第37節の東京ヴェルディ戦で、鹿島アントラーズのMF松村優太は決勝ゴールを挙げる活躍を見せた。そして迎えた12月6日の最終節の横浜F・マリノス戦、松村は先発で起用された。ここまでリーグ戦全試合に出場していたが、37試合中27試合は途中出場だっただけに、この日の先発起用には期するものがあったのではないか。

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 だが、松村はあっさりとそんな予想を否定した。「今年、鬼木さんが言っていたみたいに、全選手が準備をしてきた結果、怪我人が多く出たシーズンだったし、いろいろ選手がスタート、サブと入れ替わったりしたシーズンでもありましたけれど、出られない選手だったりも全員が準備してきた結果が、最終的に優勝につながったので。最初(スタメン)だろうが、あと(途中出場)だろうが、いつもやることは決まっていたので別に出る順序が変わることで特に変わることはなかったかなと思います」と、優勝が決まる大一番の先発起用にも特別に高ぶることもなく、求められたことをまっとうしたのみだと語った。

 前節の東京V戦に続き、松村は起用に応える活躍を見せた。前半20分には右サイドから最終ラインの裏を取ってクロスを入れ、FWレオ・セアラのゴールにつながるパスをMF荒木遼太郎に送った。2点目のゴールの場面でもスピードを生かしたプレスで相手のミスを誘発してから動き直してパスを受け、FWレオ・セアラのヘディングをアシストする。それ以外にも右サイドで攻守に好調ぶりを示して、シーズン初のフル出場を果たしている。

 サッカー選手のほとんどはスタメンとしてピッチに立つことを望む。先発で起用されなかった選手やベンチ入りできなかった選手は、気持ちがチームから離れてしまうこともある。だが、今季の鹿島はそうした選手は皆無だったと誰もが口をそろえる。その要因はどこにあったのか。

 MF三竿健斗は「全員が高い基準のなかで練習をしていたので、(試合に)出ても出ていなくても、求められる基準にみんな達しようという風に意識していたと思います。腐るっていう選択肢は、誰一人なかったと思いますし、そういった(試合に出ていない)選手たちが練習で成長していくことが、チーム力を上げていけた要因ですし、みんなで戦っている一体感もすごく出ていたので。そこはオニさん(鬼木達監督)のチーム作りのうまさかと思います」と、今シーズンからチームの指揮を執っている鬼木監督によるところが大きいと語った。

 シーズン途中にはピッチに立てない時期も続いた昨季のベストイレブンのMF知念慶は、最終節でも中盤で出色の活躍ぶりを見せた。そんな知念も、「オニさんが求めてくるところは、自分の得意じゃないところだったり、苦手な部分が多かったですけど、自分自身が成長するっていう気持ちを常に持ち続けないと、試合に絡めない状況でした。日々の練習から成長するためにっていうことは、意識してやっていました。高い意識で取り組んでいない選手は、チームのなかで浮くような雰囲気になっていたと思うので。試合に出ている、出ていない関係なく、高い意識で取り組んでいないと置いていかれるような状況だったと思うので、そういうところがシーズン終盤にも良い影響を出したと思います」と、チームの日常の厳しさを口にしている。

 DF関川郁万の負傷後から先発起用され続けたDFキム・テヒョンも、「チームの目標に『優勝』というものがありましたし、それに向けてちゃんと方向性があって、みんなが大きな目標に向かって行けたことが、モチベーションを落とすことなく、みんなでやれた要因だったのじゃないかなと思います」と言い、鬼木監督については「良い時も悪い時も、いろんな声をかけてもらいました。ビルドアップに関しては特にうまくいかない時にいろんなことを言ってもらって、改善して、次の試合に修正してという繰り返しでした。そういうところで自分が成長したなと思っています」と、自身の成長を促してくれたと語った。

 横浜FM戦では東京V戦でゴールを挙げた松村とその前のスルーパスを送ったレオ・セアラに送った荒木を先発に抜擢した鬼木監督は、その理由について、「それは彼らが自分で勝ち取ったモノだと思います」と言い、「相手との戦い方も当然、自分としては考えました。なおかつホームゲームだったことで力を発揮しやすい状況だったかなと思います。前節、彼らが結果を残した。そういう意味でも勝ち取ったと思います」と説明した。

 さらに「スタートだろうが、サブだろうがどんな形であれ、貢献しようという姿勢を、ここ数週間、数か月、感じ取れた選手達でもありました。タロウ(荒木)なんかもね、本当に苦しい時期を過ごしたと思います。でも、そこでこのチームから離れることなく、むしろなんとか歯を食いしばってついていってやろうという、そんな感じもありました。最後、そういう気持ちのところが、今日のゲームのなかでも光っていたと思います。チームに落ち着きをもたらしたい意図があったので、そういう意味でタロウを入れて、相手とのやり合いのところはマツだろうとできるだけ調子の良い選手を今回は長く使い、前半から決めにいこうと、そういう意図で選びました」と、続けている。

 選手達に高い要求をし続けて発破をかけても、手応えを得た選手がチャンスを与えられなければモチベーションも落ちていっただろう。だが、鬼木監督はしっかりと選手達を見て、活躍できると思ったタイミングでチャンスを与え、それに選手達も応えるという好循環をチームの中に作り上げた。

 そして、常勝軍団の復活、タイトル獲得は、本当に自分たちが望んで成し遂げるモノだという意識を植え付け直していた。「どうしても『優勝したい』という選手からの思いより、クラブからの思いだったり、サポーターからの思い、そちらの方が強いんじゃないかなと自分自身は感じていました。それで『自分たちはタイトルを獲らなきゃいけない』『常勝軍団でなくてはいけない』と言わなくちゃいけないようになっていました。そこの頭(マインド)だけは変えたいなと思っていたんで。『とにかく自分が一番タイトルを欲しているんだ』と話をしました。タイトルを獲得するには、プレッシャーもありますけど、やり甲斐しかない。そういう想いだよと、ずっと言っていました」と、タイトル獲得に、周囲を上回る想いを持つように言い続けたと明かした。

 ブレることない指揮官の要求に、選手たちが応えたのが最終節のパフォーマンスでもあった。前節、東京V戦では相手にボールを保持される時間も多かったが、松村は「試合前、『ハーフコートゲームをやろう』と、2次攻撃、3次攻撃をやろうということを目標に掲げているなかで、本当に前半はそれがすごくうまくいっていたと思います」「シーズンを通して、できない試合が多々あったのですが、それ(ハーフコートゲームをやろう)は、シーズンを通して言っていたこと。攻撃でも守備でも、圧倒して勝とうというのが今年のチームの目標というか、常々、言い続けることだったので。前半は良いけど、後半はダメとか、前半ダメで後半は良かったとか。なんで勝っているんだろうという試合も多かったと思いますけど、そういう試合も勝ち続けたり、負け試合を同点に持っていけたのは、全員の優勝への執念がすさまじかったと思うので。でも、ゲーム的には最終節が攻守ともに一番良かったんじゃないかなと思います」と、たった1週間での劇的な変化は、シーズンを通じて追い求めたものの成果だったと胸を張った。

 鬼木監督自身も、この日のようなサッカーを積み上げていこうとしているはずだ。プレミアリーグではシーズンの最後の試合に来シーズンのユニフォームをお披露目してプレーすることもある。この日の鹿島はユニフォームこそ今シーズンのものだったが、その戦いぶりは来シーズン以降、自分たちが目指していく戦いぶりのお披露目だったのかもしれない。

(河合 拓 / Taku Kawai)



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