鈴木優磨が内に秘める思い 悲願達成へ…蘇る8年前の悪夢「やるべきことは決まっている」

最終節へ向けて思いを語った鹿島FW鈴木優磨
鹿島アントラーズが常勝軍団復活を告げる優勝を勝ち取るのか。柏レイソルが逆転で14年ぶりに頂点に立つのか。12月6日14時に一斉にキックオフを迎える運命のJ1リーグ最終節へ、鹿島の攻撃陣を引っ張る鈴木優磨が静かに燃えている。最終節で川崎フロンターレに逆転優勝を許した、2017シーズンの悔しさを知る数少ない選手の一人となったストライカーが胸中にたぎらせる、勝利と優勝をもぎ取るための「3カ条」に迫った。(取材・文=藤江直人)
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運命の一戦が目前に迫ってきた。天国か地獄か。つまり優勝か2位か。試合結果が天国と地獄とを分け隔てる6日のJ1リーグ最終節へ、鹿島アントラーズの鈴木優磨はこんなマインドを強調している。
「基本的にはもう勝つだけだから。別に他のチームがどうこうじゃないので、本当に分かりやすい」
最終節を残すだけとなったJ1リーグで、鹿島は勝ち点73で首位をキープ。ホームのメルカリスタジアムで横浜F・マリノスに勝利すれば、無条件で9シーズンぶり9度目のリーグ優勝が決まる。
対照的に引き分け以下ならば、勝ち点72とわずか1ポイント差で追走する柏レイソルの結果次第となる。柏もホームの三協フロンテア柏スタジアムに、FC町田ゼルビアを迎える最終節で必勝を期してくる。
今シーズンと似たような状況を、鹿島は2017シーズンに経験している。鹿島が勝ち点71で首位に立ち、2ポイント差の69で川崎フロンターレが追う展開で迎えた最終節。鹿島は敵地でジュビロ磐田とまさかのスコアレスドローに終わり、ホームで大宮アルディージャに大勝した川崎に勝ち点72で並ばれ、得失点差で上回られた。
ほぼ手中にしていたリーグ戦連覇を自業自得の形で手放し、敵地で呆然とした表情を浮かべた選手たちのなかで今シーズンも鹿島でプレーするのは、先発フル出場していた植田直通と三竿健斗の他にはわずか1人。後半31分から途中出場していた鈴木は、8年前に支払った手痛い代償をいまこそ生かすべきだと強調した。
「ここから先は相手どうこうじゃなくて、本当に優勝するために自分たちが何をどのようにしていくのか、という部分が問われてくる。そういった意味でやるべきことは決まっているし、やりやすい状況だと思う」
戦い方における具体的な答えは、敵地・味の素スタジアムに乗り込んだ11月30日のJ1第37節に凝縮されている。東京ヴェルディの気迫と鋭いプレスの前に苦しめられた鹿島は、後半29分に相手のミスから掴んだチャンスで途中出場の松村優太がゴール。1-0で逃げ切った試合後に、鈴木はこんな言葉を残している。
「今日は距離感がものすごく悪かった。攻撃していても一人ひとりの距離がすごく遠くて、パスを出せる選手が限られていたのをどのように修正していくのか。ヒリヒリしたゲームがずっと続いていますけど、もっともっとチャンスの数というのを増やしていかないと、得点の確率も上がっていかないので、攻撃質の部分に加えて選手の立ち位置というものを、もう一回見つめ直してやっていく必要があるかなと思っています」
なぜ味方同士の距離が遠くなってしまったのか。選手のマインドに問題があったと鈴木は続ける。
「ナーバスになっていたというよりは、やはりみんなミスをしたくないんですよね。プレーしていて、ひとつひとつの判断が遅いと感じていたし、そうなると次の選手がボールをもつ時間がどんどん短くなってしまって、どんどんプレッシャーかかってきてしまう。もっとテンポをよくするところと、前線の選手も多少厳しいボールが入っても身体を張ってキープして、ゴール前へ迫っていく回数をもっと増やしていかなきゃいけない」
8年前の最終節を振り返れば、前半からほとんどチャンスを作れず、逆にピンチも招かない展開のまま時間だけが経過していった。鹿島ユースから昇格して3年目で、当時21歳だった鈴木もシュート数0だった。
大一番だったがゆえに逆にミスを恐れ、どうしてもプレーが慎重になる。ボールを受けたがらない思いまでもが頭をもたげ、結果として選手同士の距離感が遠くなる。ピッチ上で悪循環が生み出される理由が分かっていたからこそ、鈴木はあえて距離感というキーワードを介してセーフティーな考え方を排除しようと訴えた。
一方で8年前とは異なる状況も生まれている。最終節が注目される2017シーズンの鹿島だが、ホームに柏を迎えたひとつ前の第33節でもスコアレスドローに終わっていて、追う川崎を勢いづかせていた。
翻って今シーズンはヴェルディを撃破して連勝をマーク。14戦連続無敗をキープしてきた間に9勝5分の星を残し、さらに白星の6つが1点差。鈴木が「ヒリヒリしたゲーム」と振り返った理由がここにある。
粘り強さを融合させながら、実に9シーズンぶりとなる国内タイトル獲得へ王手をかけたヴェルディ戦後のロッカールーム。鈴木によれば、今シーズンから指揮を執る鬼木達監督はこんな檄を飛ばしたという。
「ヴェルディもいいチームだったので難しい試合だったけど、それでも監督は『もっと試合の入りから、自分たちらしさを見せていかないとダメだ』と話していた。本当にその通りだと思っている」
味方との距離感を可能な限り縮め、ミスを恐れない積極果敢な精神を前面に押し出し、前半のキックオフ直後から鹿島らしさを全開にしてマリノスをのみ込んでいく。前売り段階でチケットが完売したホームの大声援に後押しされる大一番で、勝利を手にするために実践していく「3カ条」はおのずと定まった。
ヴェルディ戦ではチーム事情もあって不慣れな右サイドハーフとして攻守両面で奮闘。後半アディショナルタイムには主戦場の最前線へ回ってフル出場した鈴木は、先発すれば8年前に悔しさを共有した植田、日本代表に名を連ねる守護神・早川友基とともにリーグ戦で全38試合出場を果たす最終節への思いを新たにしている。
「自分のポジションに限らずに、試合に出られたらチームに貢献するだけだと思っているので。危ないと思えばゴール前へ帰るし、チャンスだと思ったら前へ出ていく。ただそれだけだと思っています」
ベルギーのシント=トロイデンから約2年半ぶりに復帰した2022年1月。小笠原満男さんの現役引退後は空き番となっていた「40」を、覚悟をもって背負った鈴木は「アントラーズを優勝させるために戻ってきました」と決意を語った。4年目にして巡ってきた最大のチャンスで、プレーだけでなく背中で鹿島をけん引していく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。




















