大学の存在を知らずも「ここで目指そう」 出合った風間イズム…東海2部からJ名門に入れた理由

中部大学の樋口有斗【写真:安藤隆人】
中部大学の樋口有斗【写真:安藤隆人】

樋口有斗は東海2部リーグ中部大学に進学した

 今や大学サッカーはJクラブにおいて重要な一大供給源となっており、今年も多くの大学生がJ1、J2、J3のクラブに内定をもらっている。その数多くの内定選手の中で、今回は2026年シーズンから横浜F・マリノス入りが内定した中部大学の3年生MF樋口有斗に独占インタビューを実施。第2回目は飛躍のきっかけをつかんだ大学進学について。(取材・文=安藤隆人/全5回の2回目)

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 第101回全校高校サッカー選手権埼玉県予選準決勝、埼玉栄は昌平と激突した。樋口はキャプテンとして大一番に臨んだ。

「ここを倒せば全国も見えてくる」

 金星を誓って多くの観衆が集まった埼玉スタジアムのピッチに立ったが、現実は甘くはなかった。11分に荒井悠太(FC東京)にCKを直接決められると、直後に同点に追いつくも、34分、39分、アディショナルタイムと立て続けに3失点を喫し、前半で1-4と勝負を決められてしまった。終わってみれば2-4の敗戦。全国の舞台はやはり遠かった。

「大事な試合で勝てない。上でもやれるし、全国に出たらもっと注目してもらえるはずなのに、そこにたどり着けないもどかしさはありました」

 選手権は砂を噛むような想いを抱えながら見ていた。その一方で気持ちは大学サッカーでの飛躍に完全に切り替わっていた。

 時を高校3年生の夏に戻す。無名の存在だった樋口に関東、関西の大学からオファーは一切来ず、当初は関東大学サッカー2部、3部の大学のセレクションを受けに行こうとしていた。だが、その時に思わぬオファーが届いた。

 東海2部の中部大学。埼玉出身の樋口にとってどこにあるのかも分からないし、そもそも東海2部というリーグが存在したことも知らない状態だった。だが、「評価してもらえるだけで嬉しかった」とすぐに練習参加に行くと、整った環境とレベルの高さに驚いた。

「もともと僕は環境のせいにすることは一度もなくて、自分がその環境でうまくなればいいという考え方だったので、中部大の練習に参加をすることに何も抵抗はありませんでした。実際に行ってみて、うまい選手がいたし、北辻耕司総監督と堀尾郷介監督と話をしてみると、目指すサッカーが技術を大事にして、『止める・蹴る』からボールをつないで崩していくという僕の好きなサッカーと同じでした。正式にオファーをもらった時は『ここでプロを目指そう』と迷いはありませんでした」

 ちょうど2021年に堀尾監督が就任し、中部大がより明確なサッカーを打ち出して選手を集め始めた時だった。堀尾監督は風間八宏(現・南葛SC監督)氏の右腕的な存在で、名古屋グランパス、セレッソ大阪のアカデミーでコーチを務め、南葛でもタッグを組む存在だ。

 風間イズムを深く知る堀尾監督の哲学、サッカーに惚れ込んだ樋口は、全く知らない東海地区の中部大に飛び込むと、その成長速度をさらに加速させて行った。

「関東2、3部でやるより、中部大の方が確実にプロを目指せる。何より中部大の選手たちは『1部に上がって優勝する』という気持ちを持っている選手がいて、本気でサッカーに取り組む仲間がいたこともそう思えた理由の1つでした」

 もちろん、関東や関西の1部などと比べたら東海1部、2部は流されやすい環境にあることは否定できない。だからこそ、ただプロになりたいという気持ちだけでは難しい。本気で、心の底からプロになることを誓い、そのために自分が何をすべきか、どう行動するべきかを考えられる、自立・自律した人間でないとその夢を叶えることはできない。それを自身がよく理解していた。

「どこの地域、リーグだろうが、大学はサッカーにより集中すると最初から決めていました。もちろん全員がサッカー優先の考え方を持っているわけではないし、大学は高校より自由で誘惑も多いし、自分の意思で何でもできる。だからこそ、サッカーに本気で取り組んでいる選手と一緒に過ごしたり、自主練を一緒にしたりすれば、一緒に高め合うことができる。要は関わる人間をきちんと選ぶことができれば、流されることはありません。実際に僕の周りは夜遅くまで外にいるとか、フラフラするようなことはないので、本当に恵まれているなと思います」

 環境は自分の意思次第で大きく変わる。この自立した考えを持ち、それに対して素直に行動できる人間だからこそ、一気に頭角を現していった。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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