日本代表が豹変した「戦術カタール」 偶然の産物も…ブラジル戦で正解だった“順番”

相手も警戒してくるW杯、効果は半減すると考えて準備を進めなければならない
ブラジル代表に3-2の逆転で勝利した後、「戦術カタール」というパワーワードが出てきた。試合後に堂安律が冗談で言ったらしいが、前半と後半で日本が豹変したことが逆転の決め手になったのは間違いない。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
カタール・ワールドカップ(W杯)では試合途中から急にギアを上げるような戦い方でドイツ、スペインに勝利している。だから「戦術カタール」なのだが、来年の北中米W杯でもこの戦い方は有効なのだろうか。
ブラジル戦、前半の日本は5-4-1のコンパクトな守備ブロックを中盤に置いていた。しかし時間の経過とともに押し込まれてローブロックとなり、ブラジルに2ゴールを食らった。5-4-1システムは「1」のトップの周辺で自由にボールを持たれてしまう。そのため次第にボールホルダーへの制御ができなくなりブロックが下がる。
5人のディフェンスラインはスライドが速いのでサイド攻撃には強いが、ラインの近くまでボールを持ち込まれてしまいやすく、そうなるとDFが5人いるといっても横に並んでいるだけなので裏への脅威は4人でも5人でも変わりはない。ブラジルは巧みにその弱点を突いた。
よく言われる「2-0は危険なスコア」は強豪国にはあまり当てはまらない。2点差をつけられたら、あとは試合をコントロールされて終わる。ところが、日本は後半からマンツーマンのハイプレスに切り替えた。立ち上がりにブラジルのゴールキックが続いたのは追い風になったはずだ。リスタートなのでマークのずれが起こらない。
日本の圧力に対してブラジルはボール保持によるゲームコントロールがままならず、CBのミスで1点を返される。さらに混乱しているうちに2点を失った。前向きにマンマークするときの日本の圧力、奪ってからの素早い攻め込みは、まるでゲリラ豪雨のようだった。
後半から、突然に。というところがポイントだ。ハーフタイムの後なので、落ち着いて対策を立てる時間がない。強豪ほどボールを保持してペースダウンを図ろうとするのでプレスも効きやすい。中堅以下なら、すぐに危険を察知してロングボールでプレスを無効化しようとするかもしれないが強豪ほどすぐにスイッチが入らない。混乱したまま日本のペースに巻き込まれやすい。
強度が最大になるマンマークによるハイプレスの効果だ。マルセロ・ビエルサ監督が率いたチームがよくこうした戦い方で格上相手に成果をあげていたのを思い出す。
ただ、試合後の森保一監督の話によると、前半からハイプレスはやるつもりだったようだ。プランとしては立ち上がりからハイプレスを仕掛けて、できれば先制し、その後にブロック守備に移行するはずだった。得点できなかったことだけが予定外だったメキシコ戦と同じ戦い方をするつもりだったのだろう。確かに立ち上がりはハイプレスを仕掛けていた。
しかし、前半からプレスを続けても後半には息切れしてしまう。そのときの相手は日本のパワーが落ちたとしか思わない。引かれれば崩すのは難しくなるが、強豪ならばいくつかの決定機を作れるので慌てることもない。つまり後半から豹変したブラジル戦の順番で正解だったわけだ。
W杯では強豪よりも確実に勝つべき相手との試合の方が課題は多いかもしれない。また強豪相手でも守備を固めているのに2失点はいただけない。ブラジル戦で相手も警戒してくるだろう。「戦術カタール」はそれなりに有効だと思うが、効果は半減すると考えて準備を進めなければならない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。





















