ライバル活躍も立場は「変わったりしない」 日本ルーツの21歳GK…負傷からの復活「やってやる」

ブレーメンの長田澪【写真:REX/アフロ】
ブレーメンの長田澪【写真:REX/アフロ】

ブレーメンのGKミオ・バックハウスが抱く「やってやる!」の思い

 ドイツには優れたGKがたくさんいる。

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 39歳となったマヌエル・ノイアーがいまだにバイエルン・ミュンヘンで異彩を放ち、ヴァンサン・コンパニ監督が「マヌエルはいまでも毎週のように成長していると感じている」と称賛の言葉を口にするほどの健在ぶりを見せている一方で、23歳のフライブルクGKノア・アトゥボルがブンデスリーガレコードの5連続PKセーブを見せるなど、気鋭の若手GKとして世間の注目を集めている。

 アトゥボルは6月にスロバキアで開催されたU21欧州選手権にドイツ代表正GKとして出場。守護神として見事なセーブとインテリジェンスあるビルドアップで準優勝に大きく貢献した。

 ドイツU-21代表は次の欧州選手権に向けて新チームがスタートしているが、正GKとして期待されているのがブレーメンのミオ・バックハウス。日本人の母とドイツ人の父を持ち、U-15日本代表歴がある長田澪がその人だ。

 ドイツのメンヒェングラードバッハ生まれの長田は、幼少期は日本で過ごしていた。U-13まで川崎フロンターレ下部組織でプレーをし、2018年にドイツへ。ブレーメンの育成アカデミーで着実に成長を遂げ、首脳陣からその資質を高く認められている。23-24シーズンにオランダ1部フォーレンダムへレンタル移籍。33試合に出場し、貴重な実践経験を積んだ。

 ブレーメンに復帰した昨季は正GKミヒャエル・ツェットラーの前に第2GKとして過ごしていたが、今季開幕直前にそのツェットラーがフランクフルトへと移籍。アーセナルからレンタル移籍してきたカール・ハインとのポジション争いを制して、開幕から連続でスタメン出場を果たしている。

 ブンデスリーガデビューは誰にとっても素晴らしいことだが、自分が愛するクラブでデビューできるというのは、格別なこと。長田はブレーメンっ子だ。ファンとしてスタジアムへ足しげく通っていた時期は長い。ブレーメンのヴェーザースタジアムは古き良き時代の雰囲気を今に残す場所。ファンとの距離感が近く、その息吹を、思いを、直に感じることができる場所だ。

 長田も熱っぽく語ってくれた。

「そうですよね。雰囲気は素晴らしいですね。俺も14歳でこっちにきて、ずっと毎週末のようにここに来てたんで。この雰囲気の中でプレーできるのは、夢のような時間ですね。それは少々のことでは変わらないなって思います。今日も0-3で負けたけど、最後まで応援してくれて、すごくいい雰囲気だった。いつもポジティブなファンのためにも『やってやる!』という気持ちがすごくあります」

 話を聞いたのは第4節ホームでのフライブルク戦後だ。支えてくれるのはファンだけではない。チームメイトも長田へ何度もポジティブなメッセージを送っている。好判断で味方のカウンターにつなげるパスを出したり、相手FWとの1対1を好セーブで防いだときには、何人もの選手が長田に駆け寄り、そのプレーを称えていた。ただ試合には0-3で敗れただけに、悔しさは小さくはない。

「先週(4-0で快勝したボルシアMG戦)とは全く違う試合で、相手のやり方もすごく違うし、自分たちのやりたいことをやらせてくれなかった相手だったなと思います。後ろに枚数いて、なかなか崩しづらい相手だった。そういう相手に対して、まだちゃんとした答えが出ていないなって思う試合でした」

 フライブルク戦後にそう振り返っていた長田。ブレーメンは今季ホルスト・シュテファン新監督を迎え、新戦力も多い新しいチーム作りの最中でもある。昨季5位のフライブルク相手に敗れたものの、ポジティブな要素も少なからずあった。長田のプレーも安定感が増してきている印象を残している。

 ただ、トレーニング中に肩を負傷した影響で、長田は第5節のバイエルン戦を欠場。控えGKハインが好セーブの連発で、バイエルン代表取締役ヤンクリスティアン・ドレーセンが「ブレーメンのGKは非常に素晴らしいプレーを見せていたと思う。彼がいなければ間違いなくもっと点差をつけて勝てただろう」と称賛のコメントを残すほどだった。

 シュテファン監督も「ハインは素晴らしいプレーをみせてくれた。これほどのGKチームがいることをとてもうれしく思う」とその活躍を褒めながら、だが長田への信頼は変わらず厚いことを示している。

「だが、我々はミオを正GKとして今季に入った。それは1試合で変わったりしない」

 肩の負傷はまだ完調しておらず、次節ザンクトパウリ戦復帰は時期尚早かもしれない。守護神の復帰はチームにとって大きな意味を持つし、ここから勝ち点を積み重ねていくうえで重要な存在となる。

 ブレーメンが持つポテンシャルについて、長田は次のように話していた。

「ポテンシャルはたくさんあると思います。新しい監督でカップ戦を入れて5試合目なので、(まだうまくいかないことがあっても)それが当たり前だと思います。結果が出た試合もある。軸は変えなくて、もうちょっとニュアンスにこだわっていけたら、もっといいチームになるんじゃないかなと思います」

 チームのために、クラブのために、ファンのために、全身全霊でゴールを守る長田の復帰を楽しみに待ちたい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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