現在の日本に必要な経験値 遠ざかる大一番での「経験値が少ない」…次世代につなぐ世界一の経験

女性初のロールモデルコーチに就任した近賀ゆかり氏【写真:砂坂美紀】
女性初のロールモデルコーチに就任した近賀ゆかり氏【写真:砂坂美紀】

世界で勝つためのチームには何が必要か 近賀コーチが高いレベルのものを伝える

 日本サッカー協会(JFA)は8月20日、女性初のロールモデルコーチとして近賀ゆかり氏が就任することを発表した。今後、近賀氏はアンダーカテゴリーの日本女子代表チームをはじめ、JFAが推進する若年層の強化および普及活動に携わり、これまでの豊富な経験と知見を後進の育成に生かしていくという。

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 その発表当日に、近賀氏と佐々木則夫女子委員長がメディアブリーフィングを行った。今回、近賀氏がロールモデルコーチに選任した経緯について佐々木委員長が説明。「なでしこジャパンでの活動、日本や海外のクラブでプレーした経験を、若い世代にしっかりと落とし込んでもらいたい。引退したばかりなので、一緒にプレーして模範になってもらいながら、アドバイスをいただきたい」と期待を寄せた。

 昨シーズンまでサンフレッチェ広島レジーナでプレーした近賀氏ならではの経験と技術を高く評価している。U-15代表に選出されてから各年代別日本代表でプレーし、20歳の若さでなでしこジャパンに選出されると、2011年のドイツワールドカップで世界一に輝き、12年のロンドン五輪では銀メダルを獲得、15年カナダW杯では準優勝を経験。国際Aマッチ100試合出場を果たした。

「代表時代は、勝つためのチームにはどういうものが必要か身をもって知りました。W杯で優勝した時も、選手たちが世界と戦うためにどのように考えて行動していたのかも経験してきたので、その高いレベルのものを伝えることができると思います」

 日テレ・ベレーザ(現:日テレ・東京ヴェルディベレーザ)やINAC神戸レオネッサ、アーセナルFC(イングランド)、メルボルン・シティWFC(オーストラリア)、杭州女子倶楽部(中国)、なでしこリーグ2部(当時)のオルカ鴨川FCなど、様々な国やカテゴリーのクラブに在籍してプレーしてきた。

「日本ではやっぱりつなぐスタイルや技術の高さなどの良さをこう感じるところはあります。その一方で、(海外では)フィジカルメインのサッカーや、汚いプレーをしてでも勝負にこだわるところもありました。勝ってお金をもらう、自分はサッカーで稼ぐという意識が強くて、ある意味プロだなって」

 世界一を経験した立場から「現在のなでしこジャパンについて、必要なこととは何か」と問われると、世界に比べて足りない部分について「ギリギリの試合での経験値がまだ少ないのかなと思う」と近賀氏なりの意見を述べた。

 なでしこジャパンの現状として、2016年のリオデジャネイロ五輪の出場権を逃して以降、W杯や五輪などの国際大会ではベスト8で止まりが続いており、「勝てばメダルの色や有無が変わる」というメダルマッチから遠ざかっている。

「やっぱり、日本は技術の高さがあると思う。世界中で活躍している日本人選手が多くいるのもそうですし。(ニルス・)ニールセン監督になってから、ビルドアップの部分など、取り組んでいることが増えてきていると聞きます。だからこそ、大事な試合の最後まで戦う部分を見せられる選手がもう少し多く出てくると、もしかしたら結果にもつながるかもしれないな、とは思います」

 アンダーカテゴリーに目を向けると、U-20女子W杯の直近3大会連続で決勝戦の舞台に立っており、結果を出している。

「アンダー世代の時はまだ他国が組織的じゃないというか。おそらく、日本は戦術理解度が高いのかもしれない。でも、それぞれが経験を積んで差が埋まってきた時に、フィジカルの要素も含めて、他の国でもそこが伸びてくる。日本は技術が高いと言われていますが、得意としていた部分をもう一段同じぐらいの差で高いレベルまで持ってくっていう作業がもしかしたら必要なのかもしれません」

近賀氏が佐々木委員長から受けた影響とは?【写真:砂坂美紀】
近賀氏が佐々木委員長から受けた影響とは?【写真:砂坂美紀】

ドイツW杯の決勝でPK戦の前の円陣 リラックスさせた監督の上手さ

 近賀氏はJFA B級コーチライセンスを取得しており、数年前から指導者を目指したいという気持ちになったという。影響を受けた指導者として、佐々木女子委員長をそのひとりに挙げる。

「冗談を言いながらも、締めなきゃいけない部分はきっちりする。まだスイッチが入ってない状態の時に、スイッチが入るような雰囲気を作ってピリッとするっていう時もありました。逆に、ピリピリしそうな時は場をほぐしてくれるのがすごく上手い。(ドイツW杯決勝の)PK前の円陣の時(笑顔で和ませたシーン)、まさにあれが象徴していると思います」

 選手と監督から、ロールモデルコーチと女子委員長という関係になったふたり。指導者の先輩でもある、佐々木女子委員長について近賀氏は冗談めかしつつ、こう語った。

「もう目指すからには、やっぱりそこ(佐々木女子委員長)を目指さないと多分トップに近づけないと思うんで、必ず意識しながらやっていきたいなと思います。世界一の監督になるための極意を聞いていきます」

 9月8日から始まるU-16日本女子代表の国内活動にも参加予定だ。ここから近賀氏が指導者としてのキャリアをスタートさせる。

「まずは自分のストロングポイントを出した方がいいっていうのは、私が伝えられることだと思います。何が評価されて自分で呼ばれたのかを考えれば、選手として伸びる。そういうことを伝えたい」

 近賀氏が女子サッカーの未来について、思い描いている理想像がある。

「女子サッカーが、まず日本で女子のスポーツで1番になってほしいです。それから、世界でずっと強い国でいたいと思っています」

 選手時代に世界一となり、なでしこブームを巻き起こしたひとりだからこそ、目指す夢は大きい。いつまでも強く、人気のある女子サッカーが日常になる日に向かって歩み出した。

(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)



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