所属選手が“月謝”負担「結構キツイ」 空調ない夏の練習、5時起床で職場へ……W杯出場も浮かぶ2つの課題

フットサル日本女子代表の松本直美は“プロ化”の必要性を訴える
11月にフィリピンで初めて開催される女子フットサルのワールドカップ(W杯)への出場権を掴んだ日本女子代表。須賀雄大監督率いる同チームの主力として、5月に行われたアジアカップ初優勝に貢献したのがバルドラール浦安ラス・ボニータスに所属する松本直美だ。フットサル界の“ニューヒロイン”を「FOOTBALL ZONE」が直撃。独占インタビューの第4回では、松本自身が未来を切り開くために向き合っている女子フットサル界の現状について語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全4回の4回目)
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初のアジア女王に輝いたフットサル日本女子代表。だが、現状、国内リーグの日本女子フットサルリーグはあれど、プロ化は進んでいない。競技としての成長、そしてそこでプレーする選手たちの環境、待遇の改善は、W杯出場をキッカケにして、目を向けていかなければいけない課題でもある。
国内でも屈指の強豪で、アジアカップを制した日本代表に6人を輩出した浦安でプレーしている松本は、その課題を受け止めている。
「女性はどうしても環境の変化として結婚や出産もある。プロ化を進められれば、選手生命も長くなると思います。男女を性別で括ってはいけないとは思うんですけど、そこの差はまだまだある。もっと盛り上げて、見にきてもらえる人をたくさん増やしたいなと思っています」
例えば、松本が所属する浦安は平日の夜、21時から23時までが練習時間だ。選手全員がアマチュア選手でそれぞれが仕事をしており、終業後に練習のために集まってくる。「全員が集まれるのが20時半、ウォーミングアップをして、21時から練習スタートになります」という。
「やっぱりそういう環境で出産して、また復帰するとなると厳しいですよね。23時まで練習して、帰って寝るのは夜中の1時頃になってしまいます」。保育士や銀行員、体操教室の先生などさまざまな職種のチームメートがいる。中には、仕事の都合で5時起床の選手もいるという。生活スタイルも異なり、コンディションの維持だけでもひと苦労だ。
さらに浦安の使用する体育館は通常営業後に特別に開けてもらい練習しているため、システムの都合上、空調が止まってしまう。「夏はキツイです。サウナ状態で」。練習場の問題についてはクラブと行政間で調整を進めている。
金銭面からも目を背けることはできない。「現状は毎月、選手がチームにお金を払って活動している。勝利給ともあるんですが、自分たちが払っているお金よりは少ないです」。チームとして活動するには当然、運営費が必要だ。スポンサー収入だけでそれを賄うことはできず、選手たちがチームに“月謝”のようなものを払って活動している。
「私のチームは交通費がチーム負担なのでかからないんですけど、他のチームでは交通費も全額選手負担という場合もあったりします。働かないとフットサルもできない状況です。それでも、スポンサー各社様、行政の皆様、そして浦安市の皆様の温かいご協力とご声援があってこそ、私たちは日々活動を続けることができています。ピッチの上でプレーできる環境があることは、決して当たり前ではありません。感謝の気持ちを忘れず努力を重ねて、フットサル女子ワールドカップに向けて進んでいきたいです」
朝から晩まで働き、夜は所属クラブでの練習に汗を流し、睡眠時間を削ってまた次の日、仕事に出かける。そして、週末には試合を戦う。長距離の移動が伴う遠征になると、金曜日に移動する必要があり、有休を利用しなければならない。競技を続けるためのハードルは高く、それなりの覚悟がいる。女子フットサル界のレベル向上のためには環境改善、「プロ化」がカギになる。
「WEリーグ」に続けるか…課題となるプロ化と育成強化
松本自身は、幼稚園の年中に始めたサッカーを高校卒業と同時に引退。就職を経て、フットサルに形を変えて競技復帰を果たした。東京都リーグの十条FCレディースから日本リーグのさいたまSAICOLOにステップアップし、21年に同リーグの強豪・浦安へと移籍した。日本代表入りを果たして4年が経ち、昨年には会社を退社してフリーランスに。W杯のため、でもあった。
さまざまな環境を経験し、周囲の状況も把握したことで“プロ化”に加えて、必要だと感じたことがある。
「リーグの中でも結構レベルの差が激しいのが現状。そこを底上げ、もう少し全体のレベルを上げないと見に来る人も増えないと思います。育成年代のレベルアップもそう。私のチーム(浦安)は1つ下のカテゴリーを数年前に作ったのですが、チームも、リーグもそうした下のカテゴリーから上がってくる選手をもっと増やす取り組みをしていかないと盛り上がっていかないかなと思います」
女子サッカーは初のプロリーグとなる「WEリーグ」を2021年に設立。2025-26シーズンで5期目を迎える。例えば、2011年の女子ドイツW杯優勝経験者のDF岩清水梓(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)は2020年3月に第1子となる長男を出産。本人の壮絶な努力もあって21年に現役復帰を果たした。1つのロールモデルは女性アスリートにとっての希望になる。
「今は働きながらで夜9時から11時まで練習。そこが少しでも改善できるように、私自身も取り組んでいけたらなと思っています」
11月、新たな挑戦、世界との戦いが待っている。W杯は可能性を広げる大会となり得るかもしれない。今を知り、未来に繋げる。1歩1歩の歩みを日本中で見守り、背中を押さなければならない――。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)





















