小6で挫折…不合格で「本当にショック」 11年ぶり全国へ導いた右足「僕が直接狙います」

修徳の袖山斗也【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
修徳の袖山斗也【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

袖山斗也「本当に落ち込んで苦しかったときに手を差し伸べてくれたのが修徳」

 東京の名門・修徳が12年ぶりに全国の扉をこじ開けた。インターハイ東京都予選準決勝、國學院久我山を相手に大接戦を演じ、後半アディショナルタイムの劇的なゴールで3-2の勝利。2013年度の選手権以来となる全国大会出場を手にした。

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 重い扉をこじ開けた原動力となったのが2年生MF袖山斗也の右足だった。1-1で迎えた後半6分(40分ハーフ)、右サイドでFKを得ると袖山の右足が唸りをあげた。

「相手GKが若干左側に寄っていると感じた」

 助走から左足をぐっと深く踏み込むと、両チームが一斉にゴール前に雪崩れ込む。フォーム的にファーだと思った瞬間、彼は右足インフロントでボールを強烈に擦り上げると、ボールはインカーブを描きながら、ニアサイドにぽっかりと開いたスペースへ鋭く落ちていく。そこにDF久保陽大が飛び込んでヘディングシュート。虚を突かれたGK鎌田夏生をすり抜けてボールはゴール右隅に吸い込まれていった。

 そして2-2の同点で迎えた後半アディショナルタイム6分。修徳がカウンターを仕掛け、右サイドで袖山がボールを受けると、「相手DFがボールにかなり食いついてきていたので、1発で縦を打ち抜けると思った」と大きめのタッチでボールをスペースに運んで一気に加速。相手はたまらずファールで止めるしかなかった。アシストのシーンより内側のペナルティーエリア手前の右寄りの位置でFKを獲得した。

 セットされたボールには左利きのMF澤田琉偉も構えていて、左足のインカーブで狙った方がゴールに向かいやすい位置だった。しかし、袖山は「僕が直接狙います」と主張し、主審の笛が鳴ると右手を挙げた。

 彼の主張を知らない周りからすると、右利きの彼が蹴るとなった瞬間に「中に合わせるボールが来る」と思っただろう。しかし、彼はアシストのときよりも左足を浅目に踏み込むと、右インフロントでボールを強く擦り上げた。

 ボールは3枚のオレンジの壁の上空を破って、一気に沈んでいくとニアサイドのバーを叩いてバウンドしてゴールネットに突き刺さった。

「アシストのとき同様に、GKが若干左側に立っていたので、そのままニアを射抜こうと。直接狙うと決めたらもうあとは感覚で、ゴールに入れることしか考えていませんでした」

 右足のキックには自信を持っており、修徳中学時代からひたすらキックの精度を磨き上げてきた。「自分の武器を見つけること、それを伸ばすことに必死でした」と振り返ったように、彼には自分を一から鍛え直す必要性を痛感した大きな出来事があった。

 小学6年生のとき、中学からは地元から近い三菱養和SC巣鴨ジュニアユースに進むことを希望してセレクションを受けたが、最終選考で落ちてしまった。

「三菱養和は環境もいいし、多くのプロを輩出している。どうしても行きたかったし、最終まで行って、『行ける』と思っていたので、本当にショックでした」

 失意の袖山に声をかけてくれたのが修徳中だった。練習参加をしてみると、三菱養和に負けず劣らずの環境で、恩義も感じたことで進学を決めた。その際になぜ最終選考に落ちたのかを考えたとき、明確な武器を身につけないといけないと感じたことで、彼の右足は一気に研ぎ澄まされていくことになったのだ。

 中学2年時に全日本中学サッカー大会に主軸として出場をしてベスト8。翌年も出場をして前回王者の浜松開誠館中をPK戦の末に撃破するなど、メキメキと頭角を現した。高校進学時には他の強豪校からの声もあったが、恩義を大事にする彼は迷うことなくそのまま高校に進むことを決断した。

「変わらぬいい環境で初心を忘れないでできる。僕が本当に落ち込んで苦しかったときに手を差し伸べてくれたのが修徳だったからこそ、僕は修徳を全国に連れていくことがマストだと思って決めました」

 高校に入ってからも右足の研鑽を続けた。「球種を意識したり、ボールにきちんとパワーを伝えることだったり、回転や中の味方の状況を見て有利に立てる軌道を意識するなど、細部に拘ってやっています」と口にした通り、常に頭の中にイメージを持ち、ボールをミートする感覚や感触に意識を向けてトレーニングに打ち込んだ。パワーをよりボールに加えるために筋トレにも注力するようになった。

 その結果、彼はキックの精度だけではなく、左足の踏み込みの位置、タイミング、強度も磨き上げられ、どんなピッチコンディションでも変わらぬクオリティーのボールを蹴り込めるようになった。

 國學院久我山戦において他の選手たちがスリッピーな天然芝のピッチに苦戦しているなかでも、彼は全く問題にせずにFKだけではなく、ドリブルやクロスも精度の高さを維持していた。

「全国ではもっと成長した姿を見せられるようにしたいです」

 まだまだ恩返しは終わらない。11年間閉ざされていた扉をこじ開けた右足は、全国でも猛威を振るうはずだ。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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