ダブルエース、17歳神童、元ペップ右腕…浦和が挑む“下剋上”「初戦が全て」 タレント揃いE組展望

インテルは指揮官が交代した
AFCチャンピオンズリーグ2022王者として、新たな拡大版のFIFAクラブワールドカップ(FCWC)に挑む浦和レッズはE組でリーベルプレート(アルゼンチン)、インテル・ミラノ(イタリア)、モンテレイ(メキシコ)の3チームと対戦する。浦和は今月5日に日本を発ち、6日からオレゴン州のポートランドで合宿を行なっているが、1試合目と2試合目はワシントン州のシアトル、3試合目はカリフォルニア州のロサンゼルスで、ポートランドとシアトルは飛行機で1時間、ロサンゼルスには2時間半。広大なアメリカとしてはあまり負担なく現地入りできそうだ。
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4チームで総当たりの3試合を行い、上位2チームがノックアウトステージのラウンド16に進出できる。大手ブックメーカーのウィリアム・ヒルによると、E組の優勝オッズはインテルが14倍、リーベルプレートが50倍、浦和レッズが250倍、モンテレイが300倍となっており、グループステージも大方の下馬評と見ることができる。元スペイン代表DFセルヒオ・ラモスなど、実績のあるビッグネームを複数抱えるモンテレイのオッズはやや意外だが、大会前に監督交代があったことは少なからず影響しているだろう。
本命と見られるインテルもUEFAチャンピオンズリーグの決勝で、パリ・サンジェルマンに0-5の大敗を喫した直後に、シモーネ・インザーギ監督が退任し、サウジアラビアのアル・ヒラルを率いることに。代わりに就任したのはクラブのレジェンドでもある元ルーマニア代表DFのクリスティアン・キブ監督で、イタリアのパルマをセリエA残留に導いた手腕とカリスマ性が高く評価されている。システムはインザーギ前監督と同じ3-5-2で行くと予想できるが、蓋を開けてみてどうなるか。
インテルの“ダブルエース”とも言えるのが、抜群の決定力を誇るアルゼンチン代表FWラウタロ・マルティネスとフランス代表の大型FWマルクス・テュラムだ。大会屈指の2トップに良質なラストパスを贈りと取るべく、中盤からトルコ代表MFハカン・チャルハノールやイタリア代表MFニコロ・バレッラ、アルメニア代表MFヘンリク・ムヒタリアンといった、テクニックと機動力を兼ね備えた選手たちがチャンスを構築する。
イタリアの強豪チームだけあり、守備の安定感に疑いの余地はないが、CLファイナルで大敗していることもあり、2011年にインテルが欧州制覇と世界制覇を成し遂げた当時のディフェンスリーダーだったキブ監督としても、再構築を図ってくるはず。守護神のスイス代表DFヤン・ゾマーとオランダ代表DFステファン・デ・フライを軸に、194cmのドイツ代表DFヤン・ビセックなど、どういう配置で来るのか。
インザーギ前監督の時からポゼッションは高めで、右のオランダ代表DFデンゼル・ダンフリースと左のイタリア代表DFフェデリコ・ディマルコという両翼も、時間帯によってはまるでウイングのような高さでチャンスメイクしてくることがある。しかも、2人ともJリーグの平均的なアウトサイドの選手より、サイズが大きいので、反対側からのクロスにファーから飛び込んでくるような形には要注意だ。
浦和MF原口「フォーカスしているのは完全にリーベルプレート」
そのインテルとはまた違った難しい相手になるのが、アルゼンチンのリーベルプレートだ。もちろん初戦の相手であり、原口元気も試合が近づくにつれて「よりリーベルプレートという単語は増えていますし、より具体的にどうしてこうっていう会話も増えているので。監督も言ってましたけど本当に、初戦が全てぐらいの気持ちで僕ら準備しているので。僕らが今フォーカスしているのは完全にリーベルプレートです」と語るように、分析スタッフを除けば、現場レベルでは初戦のリーベルプレートのことしか頭にないだろう。
主力のほとんどはアルゼンチン人の選手で、ディフェンスラインにはセンターバックのヘルマン・ペッセッラなど、代表経験者が並ぶ。原口は「7-3ぐらいで攻撃を考えている。個々のタレントがある選手たちが、かなり攻撃的にやってくるチームなので。非常に守り切るのが困難な相手だとは思いますけど、その分、守備で隙を与えてくれるチームだとも思う」と語るように、大会後のレアル・マドリード行きが報じられる17歳のアルゼンチン代表FWフランコ・マスタントゥオーノを中心に、果敢な攻撃を繰り出してくる。
4-3-3の右ウイングを担うマスタントゥオーノは左利きで、変幻自在のドリブルを操る。まさしく10代の頃のリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)を思い起こさせるが、左のファクンド・コリーディオは逆にサイドのストライカーとも言うべき、ダイアゴナルランでゴール前に関わってくるので、左右が非対称になるのは浦和にとっても厄介だ。中盤は39歳のエンソ・ペレスが組み立てを担うが、高い機動力と正確な技術を併せ持つコロンビア代表MFケビン・カスターノのダイナミックな飛び出しにも要注意だ。
リーベルプレートは個の力をチームとして最大限に出してくるという基準では、もしかしたらインテルよりやりにくい相手かもしれない。ただ、90分フルパワーでずっと戦ってくるわけではなく、強度の波はあるので、浦和としても守備を固め続けてワンチャンスのカウンターにかけるというより、90分のうちの10分でも15分でも、相手が前に圧力をかけられない時間帯を生かして、そこでマテウス・サヴィオなど前めの選手だけでなく、サミュエル・グスタフソンや松本泰志など、中盤からの攻撃参加やサイドバックのオーバーラップを加えて得点の確率を上げていきたい。
モンテレイに関しては3試合目ということで、それまでの2試合で、両チームがどういう勝ち点状況にあるかで、取るべき戦略も大きく変わってくる。ただ、予想できるのは大会の1か月前に就任したドメネク・トレント監督が、かつて“グアルディオラの右腕”としてバルセロナやバイエルン・ミュンヘンでの輝かしい成績を支えた手腕を発揮してくることだ。モンテレイの前に、同じメキシコのアンルイスというクラブを率いていたが、3-4-3が基本システムになる可能性は高い。
守備の中心はセルヒオ・ラモスになるはずだが、メキシコ代表DFビクトル・グスマンは23歳の生きのいいセンターバックであり、セットプレーでは元FWらしい得点力を発揮してくる。中盤は司令塔の元スペイン代表MFセルヒオ・カナレスが組み立ててくるが、そこからゴール前にも顔を出してフィニッシュに絡んでくるので、浦和は安居海渡やグスタフソンなどが、なんとか止めていきたい。メキシコ代表MFフィデル・アンブリのダイナミックな飛び出しにも注意したい。
またモンテレイにはアルゼンチン代表経験もあるルーカス・オカンポスとメキシコ代表MFヘスス・コロナという強力なサイドアタッカーもいる。そういった選手たちがどんどん高い位置からドリブルを仕掛けてくる流れにはさせたくない。そしてセルヒオ・ラモスやグスマンが前線に上がってくるCKは非常に決定力が高い。リーベルプレートにはマスタントゥオーノ、インテルにはチャルハノールという危険なキッカーがいるが、モンテレイもカナレスという名手がいる。
浦和も前迫雅人コーチがデザインするセットプレーの得点力が、Jリーグと同じかそれ以上に勝利の鍵を握るが、対戦する3チームに共通するのがセットプレーの得点力でもあるので、セットプレーで相手に得点を与えず、自分たちが取り切れるかというのは勝負の大きなウェートを占めそうだ。原口はグループステージでサプライズを起こして、ラウンド16に勝ち進みたいと言っていたが、その確率は意外と悪くないのではないか。しかし、1試合1試合が一期一会になる世界大会で、自分たちの100%を凝縮させていくことは簡単ではない。相手の分析も大事だが、チームが今だせる最大出力を出して、なんとか突破口を開いていってもらいたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。