W杯まで1年…サバイバルが幕開け 6月シリーズでアピールした5人を厳選「最大の発見」だった21歳

6月シリーズで好アピールの5人にフォーカス【写真:徳原隆元】
6月シリーズで好アピールの5人にフォーカス【写真:徳原隆元】

今回の6月シリーズでは7選手が初招集

 来年の北中米ワールドカップ(W杯)の出場を決めている日本代表は、6月に最終予選のラスト2試合を戦った。アウェーではオーストラリアに0-1で敗れたが、ホームではプレーオフ行きが決まっているインドネシアに6-0の大勝を飾った。今回はW杯抽選会でポット2入りするためにも、できれば2連勝して終わりたかったが、森保一監督は初招集を含むフレッシュなメンバーを積極的に使って、選手層の底上げとオプションの増強に努めた。

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 そうした方針がオーストラリア戦では予選突破のかかった相手に対して、勝負という意味ではマイナスに作用した部分もあるかもしれない。それでも森保監督は今回のメンバーの中で手堅い選手起用をするよりも、オーストラリア戦とほぼ変わらないプランで、この日のゲームキャプテンを担った久保建英(レアル・ソシエダ)、遠藤航(リバープール)、鎌田大地(クリスタル・パレス)を軸に、引き続きフレッシュなメンバーにチャンスを与えた。その中でも今後の代表に向けて、大きなアピールに成功したと見られる5人の選手をピックアップする。

・平河悠(ブリストル・シティ)

 昨年のパリ五輪では1試合目のパラグアイ戦で、相手に右足首を踏まれるアクシデントにより、無念の負傷交代を味わった。その時に、もうA代表を目指すしかないという覚悟を強く持ったという平河は約1年後、チャンピオンシップ(イングランド2部)でも成長が認められる形で、A代表のメンバーに食い込んだ。

 オーストラリア戦では右サイドで対面のアジズ・ベヒッチと激しい攻防を見せながら、持ち前の守備強度と推進力を発揮。終始押し込む形を作ったが、最後は逆サイドを破られた流れから、味方のスライドに引っ張られる形でべヒッチをマークできず、土壇場での決勝ゴールを許した。それでもインドネシア戦で同じ右ウイングバックを担った森下龍矢が「いやあ、よかったですね」と振り返る平河のパフォーマンスは間違いなく、森保監督の高評価にもつながったはず。

 インドネシア戦で平河の出番はなく、今回は右ウイングバックだけで終わったが、左サイドやシャドーでも同等のパフォーマンスが想定できるだけに、サイドハーフでもっぱら堂安律や三笘薫などと競争を強いられる4-2-3-1より、3バックの方が生き残りのチャンスはありそうだ。

・佐野航大(NECナイメヘン)

 インドネシア戦の後半16分から短い時間のプレーだったが、久保建英との2シャドーで鋭い動きを繰り出して、何度も相手ゴールに迫った。特に目を見張ったのが後半22分のシーンで、右サイドから仕掛けた森下龍矢のクロスに反応すると、ダイビング気味にヘッドで合わせたが、相手GKのビッグセーブに阻まれて、A代表での初ゴールはならなかった。

「そこで数字を1つ付けられなかったのは自分の甘さだと思います。全てのところにおいてもっとレベルアップして、ワールドカップのメンバーに食い込んでいける実力をつけないといけない」と振り返った航大は3-4-2-1から3-1-4-2にシフトした終盤に、兄の海舟と2シャドーで並ぶような形に。「実感する余裕がないぐらい何も考えられなかった」というが、二人とも今はチャレンジャーの立場であるだけに、同時にピッチに立った喜びに浸っている様子はない。

 フィールドのほぼ全てのポジションをこなせる究極的なポリバレントで、ドリブル、パス、シュートのどれも高水準という超万能型だが、ここからゴールやアシストという明確な数字を伸ばしていくために、スペシャリティをプラスしていけるか期待がかかる。

・鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)

 このシリーズ最大の“発見”と言って良いのではないか。もちろんJリーグのパフォーマンスを見れば、日本代表での活躍もイメージできた21歳だが、すでに本大会を決めているとはいえ、W杯の最終予選で所属クラブさながらのプレーを攻守両面でやってのけるというのは驚きを隠せない。

 2試合目のインドネシア戦で3バックの左を担った鈴木は相手アタッカーの進攻を阻みながら、ロングボールを直接インターセプトしたり、セカンドボールを高い位置で回収して二次攻撃につなげるなど、まるでボランチがもう一人いるようだった。元々ボランチの選手というだけあり、相手陣内まで上がったところからのパスでもチャンスの起点になり、前半15分の鎌田大地によるゴールの起点なったほか、効果的な縦パスで4点目と6点目もお膳立てした。

 それらの配球に関して「前線の選手がなんとかしてくれるので。自分の力じゃなくてもやってくれる」と鈴木は謙遜気味に語るが、左右の足で、怖がることなくどんどん縦にパスを差し込んでいける実行力は心強い。3バックの左はオーストラリア戦で負傷した町田浩樹や今回は招集外だった伊藤洋輝と言った“欧州組”の実力者が揃い、フルメンバーに食い込むのは簡単ではない。

強みを存分に発揮した長友佑都の“後輩”

・森下龍矢(レギア・ワルシャワ)

 初顔ではないが、これまで最終予選に招集されていなかったフレッシュなメンバーでは最もアピールに成功した一人だろう。インドネシア戦で3-4-2-1の右ウイングバックを担い、後半24分に佐藤龍之介と交代するまでプレー。オランダ1部のゴーアヘッド・イーグルスでプレーする相手キーマンのディーン・ジェームスを向こうに回して、攻守で同サイドを制圧した。そして町野修斗の左からのクロスに飛び込んで、右足ボレーでチームの3点目を決めた。

「逆サイドにボールがある時に今回の試合も毎回入っていたので。それが結局、得点につながったんじゃないかと思います」と振り返る森下はポーランドの名門でゴールやアシストを積み上げながら、現在の3バックでウイングバックとして出た時に、堂安律や伊東純也といった主力選手とも違う特長を出せるんじゃないかとイメージしていたという。

「僕サイドバック上がりなので。今はチーム(レギア)でウインガーもやってるので。高い位置でも低い位置でもプレーできるっていうのが僕の強みだと思う、特にほかの選手にないようなフリーランのところ、逆サイドに入っていくみたいなところが僕の強みになる」と分析。今後シャドーで起用されても結果を残す自信があるという。将来は明治大の先輩でもある長友佑都のように、精神的にも仲間たちを引っ張れる存在になりたいというが、まずは無尽蔵の走りを生かして、北中米W杯へのラストスパートをかける。

・三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)

 インドネシア戦では3-4-2-1の左ウイングバックでスタメンに抜擢されると、幅広く躍動して多くのチャンスに絡んだ。右の森下龍矢は直線的に飛び出していくタイプだが、三戸は緩急織り交ぜたオブリック・ランニングを得意としており、流れに応じてインサイドにも顔を出しながら、シャドーの鎌田大地やボランチの佐野海舟とも絡み、左センターバックの鈴木淳之介から好パスを引き出した。

 三戸が出なかったオーストラリア戦は選手間の距離が遠かったり、つながりが悪かったりしていただけに、A代表デビューであることが信じがたい周囲との連携が目を見張った。鎌田大地の先制ゴールをアシストしたクロスも見事だったが、敵陣のポケットで鎌田からパスを引き出す3人目の動きも素晴らしかった。

 機敏性に優れ、本来のポジションは二列目で、左サイドはもちろん、右側も中央もできるセカンドアタッカーという意味ではオーストラリア戦でスタメン起用された鈴木唯人やパリ五輪世代のエ10番で、そこはスパルタの同僚だった斉藤光毅とも重なるが、三戸はサイドで上下動できる能力があり、ウイングバックをこなせるというのは森保ジャパンではかなり有利だ。W杯の本大会に滑り込むには欧州で個としての価値をさらに上げていきたいが、サバイバルに向けて掴みはOKだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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