「いい加減だし、働かない」元Jリーガーがスペインで衝撃 それでも日本が学ぶべきサッカーの“本質”

スペインに渡った野崎雅也、3クラブを渡り歩いてスクールで賄った生活費
2012年に浦和レッズユースからトップ昇格した野崎雅也は、J2、J3、JFLとカテゴリーを下げながらも選手生活を続けてきた。しかし、2018年にJFLラインメール青森を退団したことで、上を目指すプロサッカー選手として一区切りをつける形となった。その後、スペインに渡ることを決意した野崎は、新型コロナウイルスの影響も受けつつも現地で約3年半を過ごした。滞在中には指導者のライセンスの取得にも取り組み、サッカーを通じてさまざまな違いを感じたという。(取材・文=轡田哲朗/全6回の5回目)
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2018年の末に青森を退団した野崎だが、浦和のOB戦でまさかの負傷。その治療にしばらく専念することになり、スペインへ渡ろうとしたタイミングでは新型コロナウイルスが世界的に流行した。結局、2020年夏にスペインへ渡り、UNIFICACION LLEFIA,CF.(カタルーニャ1部、5部相当)、UNIFICACION BELLVITGE, U.D.(カタルーニャ2部、6部相当)、FONTSANTA-FATJO, C.D.(カタルーニャ3部、7部相当)と3クラブを渡り歩いた。
当初は貯金を切り崩しながらの生活だったが、「最後の2年間はサッカースクールを自分で始めて。向こうのバルセロナの日本人学校の子たちを対象にしていて、最初は1人だったんですけど、最後は20人ぐらい来てくれて。それで生活費は賄えました」。そうした活動のなか、1年間の監督実践に必要で難しかったものの、当時の時点で取得可能な指導者ライセンスは手にしたという。
また、地域リーグの1部から3部の間では、そこまで大きなレベル差は感じなかったと語り、「スペイン自体お金がないので、サッカーだけで食べてる人っていうのは、ほんとに上澄みだけです」と苦笑交じりに語る。そのうえで「(実態は)いい加減だし、働かないし、それはお金ないよなっていうお国柄なんで。だから、下のカテゴリーからプロ選手としてのステップアップって考えたら、全然スペインは行くべきじゃないなって思いながらでした」と続けた。
一方で、日本で一般的に抱かれているスペインサッカーのイメージとは異なる、サッカーという競技に対する捉え方についても野崎は語る。
「サッカーをなんのためにやってるかって言ったら、勝つためにやっていて。そこが合理的と言えばそうなのかもしれないですね。例えばスペインサッカーにはボールをつなぐとか、そういうイメージがありますけど、相手の力が上だって分かったら思いっきり引く。その試合に勝つためにパスを回していただけであって、そうじゃないチームはもう普通に汚いプレーとか守備的なプレーもありますし。でも、それはなんでかって考えたら、やっぱり勝つためにやってるんだなっていう。でも、日本では国民性なのか分からないですけど、その手段がちょっと美化されてしまうこともあって。細かく言ったらいろいろと本当にあったんですけど、一番はそこだったかなと」
スペインで実感した違い「なんとなく気持ちを察してやっといてが通用しない」
スペインで指導者ライセンス取得の過程を通じて、野崎は「彼らにとってのサッカーは母国語を話すようなもので、説明はできないんだけど操ってるっていう状態があるなと感じました」と語るように、その感覚の中に日本サッカーが学ぶヒントがあるのではないかと指摘する。
「サッカーが何語かと言われると分からないですけど、日本人がサッカーを学ぶ時は、ある種、それを外国語として受け入れて、分解して、品詞とか文法ってやっていくような感じかもしれない。でも、そうではなくて、例えば日本は日本のサッカーを母国語としてやっていく選択肢はあるかもしれないけど、まだ日本はサッカーの母国や本場とは言えなくて。でも、いつか日本をそうしたい。そのために、まずは整理して、噛み砕いて、それを使いこなしていけば、考えなくても自然にできるレベルに来る。そんなサッカーの学び方もあるんじゃないかって、少し思っているんです」
また、「西洋、東洋の哲学観の違いも大きかった」として、根本的な部分の違いがサッカーにも影響していることを実感したという。
「西洋系の言葉はしっかり根拠を積み重ねて分解していく。今まであったものを、そうじゃない、こうだって、下から積み上げていく。だから整合性は取れていて、一見かなり分かりやすいけど、言葉にしないといけない部分もある。でも、日本人とか東洋系は、ここはなんとなく分かるでしょっていうグレーゾーンを生むじゃないですか。それは良し悪しだと思いますけど、スペイン人はこのなぜ、なぜっていうのがあるから、言葉にできないと伝わらないし、『なんとなく気持ちを察してやっといて』が通用しない」
現在、野崎は埼玉県1部リーグのFCカラストでプレーしながら、日本サッカー協会の指導者ライセンス取得にも取り組んでいる。「今年はキャプテンで、練習メニューを考えているのは監督ですけど、ミーティングをするとかちょっとコーチっぽいこともやり始めています」と明かす。
野崎のキャリアは浦和ユースからトップ昇格したところからスタートした。しかし、浦和では2年間で公式戦出場はわずか2試合にとどまり、契約満了でクラブを離れることになった。もちろん、すべての選手が絵に描いたような成功を収められるわけではない。だからこそ野崎は、自身の体験を通じてクラブが選手を昇格させるかどうかに対して、考えて欲しいことがあるという。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)