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過去の敗戦から学び「一番投資しなければ」 日本代表強化への最重要ポイント「前人未到の挑戦」

W杯への取り組みを続けていくための人材育成
日本代表は2022年カタール・ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選で10戦7勝1分2敗、12得点4失点。当時は新型コロナウイルスの影響が色濃く残るなかで状況は違ったとはいえ、2026年北中米W杯のアジア最終予選では8試合を終えて6勝2分、24得点2失点と好成績を残しており、間違いなく日本は強くなったと言えるだろう。今回は山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND)に、日本が現在持っているさまざまなノウハウについて聞いた。(取材・文=森 雅史/全4回の3回目)
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◇ ◇ ◇
――日本代表は今後どのような活動になりますか?
「選手の選考やピッチの中のことは監督の専任事項です。今、コーチングスタッフは充実していると思いますが、今後も監督の要望に応じてまたいろいろなサポートを考えていきたいと思っています。もっとも、サポート環境はもっと整備する必要があると思っています。テクニカルな部分や相手の分析、突き詰めていけばやらなければいけないことはいっぱいあります。
過去の歴史を踏まえると、PK戦で必ず勝利が収められるようにしなければなりません。ですから今は日本サッカーのいろいろな試合で可能な限りPK戦を行ってもらうようにしています。そして今、アンダー世代ではPK戦の勝率がぐんと上がって必ず勝てるようになってきました。どうやればいいかというのは、さまざまなトライをしています。ボールを置いてからの間合いの取り方など、そういう細かいところですね。
パリ五輪グループリーグ第2戦のマリ戦では試合終了間際という大事なところでPKを防ぎ、1-0の勝利を収めることができました。実はPKになった時、そんな準備をしていたと聞いていたので『これは勝てる』と思っていたんですよ。そのほかの育成世代やユースもPKで勝っています」
――そのPK戦では、これまで意外な選手が外してきました。イビチャ・オシム監督の時、PKの練習をして外さなかったのが中村俊輔、遠藤保仁、そして駒野友一でした。
「ワールドカップではその駒野が外してしまいましたからね。また駒野以外の選手も外しています。そのPKを外すという事象の中で特に考えなければいけないのは、ゴールの枠を外してしまう選手のことです。GKとの駆け引きで取られてしまうのはまた別の話。セーブされるのならまだ枠に入っている。でも枠から外れるとゴールになる確率はありません。
僕は『120分間プレーした選手は枠を外してしまう確率が高い』という考えなんです。それは日本だけの話ではなくて、例えば1994年アメリカW杯の決勝でロベルト・バッジョが外しているんですね。グループリーグから数えて7試合目、そして120分間プレーしたらやはりフラフラになっている。そういう人は枠を外してしまうのではないかと思っているんです」
――そういう部分の分析などを考えると、今の日本代表はますますスタッフが足りないのではないかという気がします。Jクラブのほうがより多くのスタッフを抱えています。
「クラブの場合は、若手選手の居残り練習対応や育成の部分もあるからスタッフは多くなると思います。また例えばGKが5人いるようなクラブだと2つに分けて練習したほうが効率的ですが、代表チームではGKが3人。そうなるとGKスタッフは必ずしも増やさなくていいということになります。
それに大人数がいいかというと、そうではないこともあるんです。多いとそれだけ緩んだり、チームの一体感や結束に温度差が出てきたりもします。チームが短期間でどれくらい結束できるのかは重要で、人数が増えればその分難しさが増えると思いますね。
とはいえ、選手を100%の状態に常に保つため必要なことはやっていかなければなりません。特に2026年にアメリカ・カナダ・メキシコで共催されるW杯はチーム数が増え、開催期間も長くなり、グループリーグから決勝までの試合数が1試合増えて8試合になりました。これまでの常識では測れないものがあると思うので、その点まで踏まえてしっかりと準備の中でやっていくことを詰めるのが大切だと思います」
――新しい大会のフォーマットですから、どの国もまだノウハウを持っていませんね。
「そうですね。出場国が増えて大会も大きくなって、それを上り詰めるチームがどこになるかという前人未到の挑戦だと思います。そして、その大会を勝ち進んでいくと選手がどういう状態になっていくのかという想像をして準備をすることになります。例えばカタール大会に比べると移動が多くてメディアのみなさんも大変になるでしょうから、みなさんに発信してもらいやすくするように工夫し、それが熱としてチームに戻ってくる――そうしたことも考えなければいけないかもしれません。
あとは長い目の準備で言うと、選手を支えるのはチームのスタッフだけでは難しい。家族のことを心配せずトレーニングやゲームに集中できるように、試合のあとは家族と一緒に過ごす時間が必要じゃないかとも考えています。プレッシャーやストレスを少しでも排除していくことが選手のエネルギーに確実につながるんです。試合の時は心の火がついた状態になるでしょうが、安らぎがないと燃え尽きてしまいますからね。SAMURAI BLUEのスタッフにもW杯を経験した人材がたくさんいるので、『あれが良かった』『あの時はこういうことをした』『あれで失敗した』ということを出し合う、そういう会話をたくさんしています」
――日本にW杯に対する経験値が蓄積されてきていますね。
「W杯への取り組みを30年続けてこられたということだと思います。人材は急には育たない。その人材育成が一番投資しなければいけない部分だと思います。だからテクニカルスタッフが増えれば、もっと経験値も増えるんです。必要なものはちゃんと増やしていくことが大事だと思っています」
――今年の9月以降は親善試合が続きますが、そのなかでどのようにチームをサポートしていく予定ですか?
「選手を集めて強化できる時間はもう限られています。6月のW杯アジア最終予選、7月のE-1選手権、それから9月、10月、11月のそれぞれ2試合。来年になると3月と6月ですね。そこは監督と話をして早めに動いています。ただ対戦相手は、ほかの大陸の予選状況もあるので難しいですね。W杯出場国と対戦しなければいけないと思っていて、かなり進んではいます。
チームからは『こういう準備をしたいから、こういう相手とやりたい』という要求をもらいます。全体を見渡した時、やれる相手が限られてくるため、そのなかでどう効率良くやっていくかだと思っています。ただ、まずは現場がどういう相手とやりたいか優先順位を出してくるので、それに対してしっかりと準備しています」
――9月で南米大陸の予選が終わり、10月(2試合/大阪・東京)と11月(2試合/愛知・東京)の親善試合では南米のチームと戦うのではないかと思っているのですが、ヨーロッパで開催したほうが良かったのではないですか?
「会場に関してはJFA全体で決めていくことなので、決まったなかでより効率的にやるだけです。ただ、W杯本大会を考えた時は移動が多いので、今回も移動したうえで試合をするというのも意味があると思います。それに2023年はヨーロッパでドイツやトルコと試合をしました。そこでいろいろなことを試し、成果を出したと思っています。
また親善試合では、対戦相手のこともそうですが、みんなが集まることにまずは意味があると思っています。みんなが一緒に過ごすなかで、日常のトレーニングで新しいことを積み上げていく。新しい選手が来てコンビネーションを高めていく。ミーティングでいろんなことをフィードバックしていく。一緒に過ごすことによりチームの成長があるのです」
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。