まさに別格…田中碧は「ジェームズ・ボンド」 “完全司令塔”として歩む理想的キャリア【コラム】

リーズの田中碧【写真:Getty Images】
リーズの田中碧【写真:Getty Images】

リーズで中心選手として活躍する田中碧、プレミアリーグ昇格に貢献

 リーズ・ユナイテッドがチャンピオンシップ(2部)の第44節ストーク戦で6-0と大勝し、プレミアリーグ昇格を果たした。

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 この試合でも日本代表MF田中碧の存在感は際立っていた。セントラルMFとしてゲームを作り、ピンチを未然に防ぐ。かつてダニエル・ファルケ監督が「ジェームズ・ボンド」と称賛したようにプロフェッショナルな仕事ぶりである。

 ファーストタッチで瞬時に次のプレーに移行できるような体勢を作る。卓越したワンタッチコントロールと次の展開への予測と読みが明確。どこへパスすればいいかを常に把握しているので、チームメイトへも的確な指示を送っていた。

 ここまで田中は41試合に出場して4得点2アシスト。特筆するような数字ではないかもしれないが、リーズの中では完全に司令塔として機能している。
 
 リーズの黄金時代は1960~70年代だった。1968-69シーズンにイングランドリーグ初優勝、73-74も優勝して翌シーズンのチャンピオンズカップでは決勝まで勝ち進んだ。決勝ではフランツ・ベッケンバウアー、ゲルト・ミュラーらを擁するバイエルン・ミュンヘンに敗れたが、準決勝ではヨハン・クライフがいたFCバルセロナに勝っている。
 
 当時のリーズは激しさと運動量で押すイングランドサッカーの典型的なプレースタイルで、ストライカーのジョー・ジョーダンは空中戦の猛者として知られていた。恐れを知らないプレーぶり、前歯がほとんど折れてなくなっていたというタフガイだ。プレーメーカー、ブリー・ブレムナーは技巧派だったが同時にファイターでもあり、ジャッキー・チャールトン、ノーマン・ハンターなど強面の男たちが居並ぶいかついチームだった。
 
 1991-92シーズンには3度目の優勝。プレミアへ移行する前の最後のシーズンだ。シーズン途中で加入して15試合にプレーしたエリック・カントナの活躍があった。90年代は第二期黄金時代を迎えたが、2003-04シーズンに降格、破産によって3部へ転落。2020-21シーズンにようやくプレミアリーグへ戻って来たが、3シーズンで再び降格していた。

 来季は3シーズンぶりのプレミア復帰となる。かつての強豪クラブでありファンも多い。チームとともにプレミアに昇格する田中のキャリアとしては理想的だと思う。ただ、昇格チームの主力は他チームから引き抜かれるケースも多く、新たに加入してくる選手もいるだろうから、今季とは陣容が変わる可能性もありそうだ。
 
 今季の骨格を残すなら、田中は攻守の軸として不可欠の選手と言える。過去にもプレーメーカーとして中田英寿(ボルトン)、稲本潤一(フラム)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)がいて、現在も鎌田大地(クリスタル・パレス)、遠藤航(リバプール)がプレーしているが、2部とはいえリーズにおける田中は別格の中心選手という印象がある。

 プレミアとなれば格段に強力な相手も多くなり、守勢に追い込まれる試合も増えるだろう。攻撃するチームの中でタクトを振るってきた今季とは別の戦いが待っているわけだが、そこで真価を示せば田中への評価は一気に高まるに違いない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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