欧州10年→“史上初”J1首位の立役者 ファンタジスタがもたらす影響「原口元気さんもそう」【コラム】

京都の奥川雅也【写真:柳瀬心祐】
京都の奥川雅也【写真:柳瀬心祐】

古巣京都に復帰、異国で培ったエッセンスをチームに植え付ける奥川雅也

 開幕から意外な展開が続いている2025年J1。第10節時点ではアビスパ福岡がクラブ史上初の首位に立ったが、第11節時点のトップは同じく史上初の京都サンガF.C.。2021年に曺貴裁監督が就任して1年で最高峰リーグ昇格を果たしてから、J1・4年目で積み上げてきたことが1つの形になったと言っていい。
 
 しかも今季の京都はこれまでのような強度や走力、球際の強さだけを前面に押し出すスタイルだけではない。状況に応じてボールを保持し、ペースダウンしながら柔軟な戦いを見せているのだ。もちろんラファエル・エリアスという怪物ストライカーがいるから勝てている部分も少なくないが、サッカーの質が少なからず変化しているところも見逃してはならないだろう。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 今季のチームに異なるエッセンスをもたらしている1人が奥川雅也だ。ご存知のとおり、京都のアカデミー出身で、10代の頃から「古都のネイマール」と呼ばれたファンタジスタ。19歳だった2015年6月にはオーストリア1部・ザルツブルクに完全移籍し、セカンドチームのFCリーフェリングに2シーズンレンタルで赴き、異国の環境適応を進めた。
 
 その後、同国1部・マッテスブルク、ドイツ2部・キールを経てザルツブルクに復帰。ようやく1つ年上の先輩でユース代表の頃から共闘していた南野拓実(ASモナコ)と同じ舞台に立てた。南野は同年末にリバプールに移籍したため、ともに試合に出たのはほんのわずかだったが、いい機会になったことだろう。
 
 奥川はその1年後の2021年1月にドイツ1部・ビーレフェルトへ赴き、同年夏には完全移籍へと移行。21-22シーズンには33試合出場8ゴールという目覚ましい結果を残したが、チームは降格。そこからはアウクスブルク、ハンブルガーSV含めて2部での生活を余儀なくされ、最終的に今年頭に古巣・京都に戻る決断を下した。
 
 南野のような華々しいキャリアを送ったわけではないが、欧州で10年戦い抜くのは容易なことではない。その厳しさとタフさを持ち合わせているからこそ、自身もドイツで学んだ曺監督から大きな信頼を寄せられているに違いない。

値千金の決勝弾「ドイツから戻った僕らがもたらせるのは…」

 その期待に応えるかのように、直近4月19日のアルビレックス新潟戦では値千金の決勝弾を叩き出し、首位浮上の立役者となったのだ。
 
「ドイツから戻った僕らがもたらせるのは、ゴールの意識と守備の強度。(4月16日の浦和レッズ戦で直接対決した)原口(元気)さんもそうだと思いますけど、あのレベルが普通になっているので、タフな守備からどうやってゴールに結びつけられるのかというのはドイツの時のほうがより強く考えていた。だからこそ、日本と違ってゴールにダイレクトに向かうプレーが多くなるのかなと思います。それに数字を強く求められていたことも大きい。向こうではいくらいいプレーをしても、やっぱりゴールを取る選手のほうが評価は高かった。僕自身もそこに目を向けて、ゴール前の行き方を常に勉強してました」
 
 奥川はこんな話をしていたが、得点重視、もっと言えばゴール至上主義のスタンスは海外経験者に共通する部分かもしれない。今季J1得点ランキングを見ると、日本人トップの5点をマークしている北川航也(清水エスパルス)、それに続く4点の渡邊凌磨(浦和)、西村拓真(FC町田ゼルビア)はいずれも欧州から戻ってきた選手。彼らは「点を取れなければ何も始まらない」という厳しさを身に染みて感じているからこそ、そこに強くこだわったプレーをしているのかもしれない。
 
 しかしながら、Jリーグの場合はエゴばかりを前面に押し出せばいいというわけではない。そこは奥川も心得ており、フォア・ザ・チーム精神を大事にしながらピッチに立っている。
 
「日本と欧州の違いを考えると、1人1人の技術は日本のほうが高いですし、チームワークや組織としてやらなければいけないことを徹底するチームが多いので、いい意味の真面目さをすごく感じます。ドイツにいた時は正直、スペースがもっと少なかったですし」とも彼は語っていたが、そこに適応しつつ、ゴールへの貪欲さや決定力を発揮することが、10年ぶりに古巣復帰した百戦錬磨のアタッカーに課せられたタスクにほかならない。

好調な京都で存在感を発揮…目につく好プレー「そこが僕の加わった強み」

 実際、奥川は京都のリズムに変化を加え、緩急をつけながら攻撃をお膳立てしている。右サイドで出たとしても時には中央や逆サイドに流れたり、引いた位置でボールを受けたりと機転の利いたプレーが目につくのだ。
 
「そこが僕の加わった強みだと思いますし、もっともっと自分たちの時間を作るようにプレーをしていかないといけないと思います。僕ら京都は『Jリーグで違ったサッカーをする』というのを掲げて今季、取り組んでいる。それを徐々に示したなかでのこの順位だと思うので、もっともっと違いを見せていきたいですね」

 こう語り、目を輝かせる奥川。彼自身、久しぶりのJリーグを心から楽しんでいる様子だ。欧州から戻ってきた選手を見てみると、大迫勇也(ヴィッセル神戸)や原口のようなトップ選手でも日本の環境やスタイルに戸惑い、適応に時間がかかるケースが少なくない。奥川はそのハードルをすぐさまクリアし、自分らしさを出している。そこは特筆すべき点だ。
 
 ただ、ここから気温や湿度が上がり、コンディション的にかなり厳しくなる。2023年に日本に復帰した香川真司(セレッソ大阪)も「日本の夏は本当にしんどい」と苦笑していた。10年間欧州で暮らし、フィジカル的にもその環境に慣れていた彼にとっては、ここからが本当の勝負と言えるかもしれない。
 
「ここから連戦になりますし、こういう時はチームの雰囲気とかも大事。疲れている中でどういうサッカーができるのかが今後の課題。賢い試合運びも大事になっていくんで、そこも考えながら勝つことを徹底したいです」と語気を強めた京都のファンタジスタのこの先のパフォーマンスから目が離せない。

page1 page2

元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

今、あなたにオススメ

トレンド