U-22選抜が露呈した”試合勘不足” 「このままではダメ」…ポストユース対策へ好例とすべき国【コラム】

ポストユース対策の第一歩がスタートした
日本サッカー界の「18歳問題」が叫ばれて久しい。ユース年代までは過密日程の中で試合をこなすのに、高校を卒業してプロになった途端、公式戦から遠ざかり、成長が止まってしまう。そんな事例が数多く見られることが深刻な問題となっているのだ。
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93年のJリーグ発足当初はサテライトリーグがあり、セカンドチームの選手も90分ゲームをコンスタントに重ねることができた。だが、その活動が徐々に形骸化し、2009年にいったん休止。その頃には「高校を出ていきなりプロになるよりも、大学へ行ってしっかり試合に出て強化してからプロになる方がいい」という意識が一気に強まった。その結果、18歳時点でトップと言われた選手が大学進学を選択するケースが急増。三笘薫(ブライトン)は象徴的存在と言われている。
2020年代になると「Jリーグを経由せずにリザーブリーグが確立されている欧州に行った方が心身ともに鍛えられる」という考え方が広がり、チェイス・アンリ(シュツットガルト)や福田師王(ボルシアMG)のような道を辿る者も出始めた。これは個人の選択だから仕方ないし、日本サッカー強化を考えればプラスの要素も少なくないが、Jリーグにとっては損失になり得るだろう。
その流れに歯止めをかけるべく、夏開幕へと移行する2026年からのU-21リーグ創設に向けた動きが本格化している。しかし、Jリーグ全60クラブがいきなり参加するわけではなく、18歳問題がすぐさま抜本的に解決されるとも言い切れない。今、できる策を講じなければならない……。そんな危機感が強まり、今回、JリーグとJFAが協働事業としてJリーグU-22選抜を立ち上げた。
まさに“肝いり”のポストユース対策の一歩となる第1回活動が4月21~22日の2日間で行われ、22日には関東大学選抜とのゲームも組み込まれた。
森保監督や関係者も実際に試合を視察
試合当日、千葉県内の会場には日本代表の森保一監督ら関係者、メディア、数多くの観客が詰めかけ、ライブ配信もされるなど、通常の練習試合とは異なる雰囲気が漂った。本気モードの中で長く試合をしていない若手プロ選手にとってはモチベーションも大いに高まったに違いない。
コーチングスタッフの顔ぶれも豪華だった。指揮を執った羽田憲司監督はU-20日本代表と2028年ロサンゼルス五輪代表コーチを兼務。「今年9~10月のU-20W杯への選手選考も兼ねている」と選手に直々に伝え、闘争心を煽った。さらには小野伸二(Jリーグ特任理事)、菊地直哉(鳥栖コーチ)、大谷秀和(柏コーチ)らJ屈指のレジェンドたちがコーチとしてベンチ入り。試合前のミーティングで「高度な技術をどうやって身に着けたんですか」と小野コーチに質問した選手がいたというが、彼は「誰よりも努力した」と断言。「みんなそれだけ努力していますか」と逆に問いかけ、改めて自覚を促したという。
それだけ整った環境でプレーできるのだから、U-22選抜が圧倒するかと思われた。だが、序盤から押し込まれるシーンが目立ち、なかなか攻撃の形が作れない。
キャプテンマークを巻いた2023年YBCルヴァンカップ・ニューヒーロー賞受賞の早川隼平(浦和)がパスミスをしたかと思えば、2023年U-17W杯参戦の川村楽人、山本丈偉(ともに東京V)がボールコントロールを誤るシーンが見られるなど、どうもぎこちなさが目に付いた。
前半最大のビッグチャンスだった早川から出間思努(札幌)に浮き球のスルーパスが出たシーンでも出間がトラップしきれず、シュートまで持ち込めなかった。そういった一挙手一投足こそが、「試合勘の不足」にほかならないのだ。
後半から今季公式戦2ゴールの川合徳猛(磐田)らが出てきてギアが上がったが、結局ゴールを割るところまでは辿り着かない。関東大学選抜も決定力を欠き、試合は0-0のままPK戦へと突入。U-22選抜は碇明日麻(水戸)と本多康太郎(湘南)が外し、敗戦を喫することになった。
「普通だったら大学生に差を見せられるところだけど、逆に押し込まれてしまうのが現実。やっぱりゲームに出ないと難しい」と羽田監督もズバリ指摘していたが、本当にそのことは深刻な問題なのである。
U-22選抜の活動をスタートさせたことは選手、関係者ら日本サッカー界を取り巻く人々が現実を知るいい機会になったし、「このままではダメだ」とハッキリ認識したという意味でプラスだったと言っていい。
とはいえ、わずか2日間で全てが変わるわけではない。Jリーグの足立修フットボールデイレクターが「来月は関西ラウンドをやります」と語り、次回はU-22選抜対関西大学選抜との試合を組むことも明らかにしたが、これを継続的にやっていかなければ底上げにはつながらない。選手の年齢もU-22ではなく、高校を卒業してすぐの18~19歳(U-20)にすべき。今回は羽田監督らの意向でそういったチーム編成になったが、今後も20歳以下をベースにすべきではないか。
ウズベキスタンでの好例を参考に?
選抜の活動に関しては、もちろんJリーグやカップ戦、年代別代表活動のスケジュールもあるから、必ずしも毎月できるわけではないだろう。ただ、理想を言えば、選抜が恒常的に活動し、Jリーグや下部リーグに参戦するような状況が望ましい。それを実際に行って、この世代をレベルアップさせているのが、ウズベキスタンだと羽田監督も話していた。
「ウズベキスタンが強くなっているのはパリ世代のチームがトップリーグに参加していたから。その選手たちがA代表に昇格して、力をつけてきているという現実もあるので、日本もウカウカしていられないと思います」と指揮官は語気を強めていた。
選抜のリーグ参加が難しいのであれば、個人個人のレンタル移籍をもっと各クラブが活発化させるべき。2005年生まれの早川を例に取ると、2024年は途中からファジアーノ岡山へレンタルで赴き、15試合2得点という結果を残し、クラブ史上初のJ1昇格に貢献。その実績を引っ提げ、今季は浦和で勝負しているが、本職の2列目はマテウス・サヴィオや金子拓郎ら新戦力が加わって競争が激化。ボランチでも試されているが、間もなく柴戸海も復帰予定で、チャンスをつかむのが容易ではないようだ。
「最近、90分ゲームをやったのは、3~4週間前だと思う」と本人も話していたが、選手として一番伸びる18~19歳の時に宙ぶらりんな状態にとどまっていたら、成長のチャンスを逃すことになってしまう。羽田監督も「もっとレンタルに出してほしい」と本音を吐露したが、クラブ側も若い選手を置くだけで使わないという状況を減らす努力を払うべき。選手起用は監督の裁量の範囲だから、クラブ側が注文をつけるのは難しいのだろうが、少しでも状況が変わるように仕向けていってほしいところだ。
今季は松本山雅FCにレンタル移籍しながら、まだ定位置を確保できていない本間ジャスティンが「ここに来ていてはダメ」と厳しい表情で話していた通り、選手たちも「リーグ戦に出て活躍しなければ、明るい未来は開けてこない」と分かっている。実際にそういった方向に進むように本人もベストを尽くさなければならないが、やはり環境を変える努力も重要。才能ある若者がつぶれていく日本サッカー界であってはいけないのだから。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。