日本代表に必要な“鉄板化の脱却” 潜む不安要素…指揮官に注文したいボランチ起用法【コラム】

日本代表・遠藤航(左)と守田英正【写真:Getty Images】
日本代表・遠藤航(左)と守田英正【写真:Getty Images】

ブラジルW杯直前にザッケローニ監督が見舞われたアクシデント

 11月15日に行われたインドネシア戦(ジャカルタ)に4-0で勝利し、日本代表は2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の前半戦5試合で勝ち点13を稼いだ。グループCで独走体勢を築いており、19日に行われる中国戦(厦門)に勝利すれば、2025年3月シリーズでの8大会連続出場決定に王手をかける可能性も出てきそうだ。

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 その日本代表は16日に厦門入りした。現地で2日間の調整を経て次戦に挑む。インドネシア戦が当初より1日後ろ倒しになったため、移動を伴う中3日という過密日程を強いられる。欧州でUEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグなどを週中に行っている選手が多く、タフさは身についているだろうが、厦門という土地は初めて。環境への適応含めてアクシデントが起きないとも限らないだけに、細心の注意を払う必要がある。

 実際、10月シリーズでも2戦目のオーストラリア戦(埼玉)でキャプテンのMF遠藤航(リバプール)が体調不良を訴えて欠場。急遽、MF田中碧(リーズ)がMF守田英正(スポルティング・リスボン)とコンビを組むという、予期せぬ出来事が起きている。

 遠藤の代役を務めた田中碧はご存じの通り、前回の2022年カタールW杯最終予選途中から主力となり、チームをV字回復させた立役者の1人。カタールW杯でもドイツ、スペインという極めて重要度の高い試合に先発し、スペイン戦では「三笘の1ミリ」のアシストから決勝弾を叩き出している。

 しかし、第2次森保ジャパン移行後は遠藤と守田の“鉄板ボランチ化”が加速。田中碧の出番は目に見えて減っている。2023年は9月のトルコ戦(ゲンク)、10月のカナダ戦(新潟)、11月の2次予選・ミャンマー戦(吹田)の3試合に先発しただけ。2024年は1~2月のアジアカップ(カタール)でメンバー外になった影響もあり、完全にサブという位置づけになっている。

 加えて、森保一監督が6月から基本布陣を4バックから3バックへシフトした。3バックにおける2ボランチとしての経験値を積み重ねられないまま、最終予選に突入したことも田中碧にとってマイナスに作用している。オーストラリア戦で戸惑いを感じながらプレー。試合後には3-4-3をベースにしているチームの動画を見て、自身のプレーを検証するなど、彼なりに努力はしているという。

 けれども、11月シリーズの初戦だったインドネシア戦でも出番は与えられなかった。守田が12日の練習を別メニューで調整していたため、後半途中からは田中碧が入るのではないかという見方もあったが、結局のところ指揮官が送り込んだのはFW、シャドー、ウイングバック(WB)の選手だった。

「最終予選では勝つ確率を引き上げるため、基本的には固定メンバーで戦う」と指揮官はコメントしていたが、「切符を獲得するまでは守備陣とボランチを変えずに戦う」という意向が非常に強いのだろう。

これまでやっていない遠藤航と田中碧のコンビで戦う時間を作ってほしい

 確かに遠藤と守田のボランチはアジアカップの頃のような連携・意思疎通のズレがなくなり、非常にいいコンビネーションを見せている。遠藤は今季リバプールで出場機会が激減。試合勘の不足が不安視されていたが、代表戦での一挙手一投足を見る限りだと、パフォーマンスが落ちるような状況にはなっていない。

「個人的には今まで何百試合と出てきている中で、試合勘に関して、そこまで大きなギャップが生まれることはない」と本人も前日会見で自信をのぞかせていたが、小さなミス以外は見る者に安心感を与えてくれた。

 守田の方は、攻守両面で圧倒的な存在感を示している。守田とMF鎌田大地(クリスタルパレス)がポジションを前後に入れ替え、マークをはがしながら、守田がゴール前へ出ていって得点に関与する仕事というのが、最終予選に入ってから大いに目立っている。9月のバーレーン戦(リファー)では守田がゴールを奪い、10月のサウジアラビア戦(ジッダ)、そしてインドネシア戦では鎌田の得点をアシスト。最終予選の全19ゴール中5点に関与するという目覚ましい働きを見せているのだ。

 そうなると、森保監督が2人を変えづらいのも理解できるが、鉄板化すればするほど、いざという時のダメージが大きくなる。それは遠藤保仁(現G大阪コーチ)と長谷部誠(日本代表コーチ)が鉄板ボランチを形成していたアルベルト・ザッケローニ監督時代の日本代表がまさにそうだった。

 2014年ブラジルW杯直前に長谷部が膝の大怪我を負い、本番出場が危ぶまれる状況になって、ザッケローニ監督は慌てて山口蛍(神戸)や青山敏弘(広島)を戦力化しようと躍起になったが、思惑通りに事は運ばなかった。最終予選を戦いながら、ボランチの幅を広げていくというのは難題には違いないが、それをやっていかなければ、選手層は厚くなっていかない。

 今回もオーストラリア戦では中盤の連動性が低下し、攻守両面でノッキングを起こしていた。その全ての原因が田中碧にあるわけではないし、田中碧も時間さえ与えれば、迅速に3バックの2ボランチのプレーに適応していくに違いない。

 森保監督は“切符を取ってからいろんな選手を使う”と考えているのかもしれないが、緊張感のない中で組み合わせを入れ替えても、2026年W杯本番のギリギリの状況で使えるようにはなりにくい。超過密日程の次戦・中国戦こそボランチの入れ替えにトライしてほしいもの。少なくとも試合途中からはこれまでやっていない遠藤と田中碧のコンビで戦う時間を作ってほしい。それが先につながるはずだ。

 田中碧より序列的に低い藤田譲瑠チマ(シントトロイデン)ら若手を戦力化していく作業はもっとハードルが上がりそうだ。第4のボランチ枠には、彼以外にも、最終予選では招集されていない川村拓夢(ザルツブルク)や佐野海舟(マインツ)のような人材がいる。彼らをどう組み込んでいくかも今後の重要なテーマになってくる。

 いずれにしても、遠藤と守田の鉄板ボランチのまま、1年半後の大舞台まで行くことがないように、今後のマネジメントを工夫していくべきではないか。難易度の高いテーマなのは承知で、森保監督にあえて注文しておきたい。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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