J1復帰クラブで躍動 FK名手がカメラ越しに…声掛けに返した充実「毎日が楽しい」【コラム】

東京Vの山田楓喜【写真:徳原隆元】
東京Vの山田楓喜【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】山田楓喜がフリーキックでネットを揺らす

 9月22日のJ1リーグ第31節・東京ヴェルディ対サガン鳥栖の一戦。前半19分、東京Vは鳥栖ゴール前でフリーキック(FK)のチャンスを得る。キッカーはプレスキックに高い精度を誇る山田楓喜。

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 ここで山田の右前方にいた翁長聖が、インサイドキックの蹴り方を練習するように、足を振る仕草を見せた。もしかして、このFKは直接ゴールを狙うのではなく、山田が前方の翁長にパスを出し、さらに中央へボールを入れ、ゴール前の選手が押し込むというトリックプレーになるのでは思った。

 しかし、山田の左足から放たれたボールの軌道は複雑な経路を辿ることなく、鳥栖の選手が作った壁の頭上を越えてゴールへと到達した。良くコントロールされたFKから先制した東京Vは、後半36分にも翁長が得点し結果2-0で勝利する。

 スコアから見れば決して派手な勝利ではないと思われるかもしれない。だが、J1の舞台へと久々に戻って来た東京Vにとって、この勝利はチームが目指しているスタイルへの完成の道を、着実に突き進んでいることを実感させる充実の内容となった。

 開幕当初の東京Vは試合終了間際や大事な場面で失点してしまう、勝負弱さを露呈していた。しかし、チームはJ1での実戦を積み重ねることでそうした弱点を克服し、ここにきて鳥栖を相手に抜群の安定感を見せた。もはや東京Vにかつてのひ弱さはなかった。

 東京Vはマイボールにするとサイドに開いた選手にボールをつなげて相手の守備網を揺さぶり、チャンスと見れば前線の選手へと縦パスを通す。内側からサイドに、そして中央にとボールをつなげる出し入れが実にスムーズで、そのプレーには戦術的意図が強く感じられた。前半に限って言えば東京Vと鳥栖の戦術を遂行するレベルには大きな差があり、城福浩監督の手によって仕上げられたホームチームの力強く、そして流れるようなボール運びは素晴らしかった。

 個人が作り出す独創的なイマジネーションから生まれる華麗なテクニックもサッカーの魅力であるが、こうした洗練されたチームとしての動きも戦術が重視される現代サッカーでは見どころとなる。そして、練習通りの形でボールを運べ、相手を圧倒できた東京Vの選手たちは、さぞかしプレーしていて楽しかったと思う。

後半はペースダウンするも守備力に決定的な差

 ただ、後半は東京Vのサッカーもペースダウンすることになる。J1残留に向けて是か非でも勝ち点がほしい鳥栖は後半15分に清武弘嗣、その12分後にヴィニシウス・アラウージョと堀米勇輝をピッチへと送り出し互角以上の展開を見せる。

 鳥栖の戦い方は東京Vの戦術と近く、後方と中盤でボールをつないで相手の守備体系を崩し、前線の選手に縦パスを出すといったスタイルだった。しかし、両チームには守備力に決定的な差があった。鳥栖は敵陣深くまではボールを運ぶものの、最終局面では東京Vの厳しいマークに遭いゴールまでは届かなかった。

 試合後、東京Vのサポーターの声援に応えるために、スタンドへと駆け寄る山田にカメラのレンズを向け、「今日はプレーしていた楽しかったでしょう」と声をかけた。攻勢に出た前半で先制点を奪い、戦術による連動した動きで主導権を握る。後半は押し込まれる展開も激しい守備で対抗し、終盤に追加点を奪い逃げ切る、十二分に持ち味を発揮した試合運びで勝利したのだから、楽しくなかったわけがない。後半の劣勢さえも、弱気になることはなく自分たちの現状の力を試そうとする意気込みがみなぎっていた。

 しかし、殊勲の先制点を叩き出した背番号18は「いや」とこちらの言葉を否定した。そして「(今日だけではなく)毎日が楽しいです」と笑顔で答えてくれた。

 自分たちが目指すサッカーを練習で追求し、それを本番の試合で表現できる。勝利という結果も出し、チームが向かっている方向は間違ってないと感じているのだ。山田の言葉にチームの充実感がうかがえた。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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