鬱でプレー断念…学芸大→東大→専門学校、異色ルートで「J入り」目指すフィジカルコーチの思い【インタビュー】

医療系の専門学校に通いながら東大ア式蹴球部のフィジカルコーチ兼トレーナーとしてJリーグ入りを目指す米田一稀さん【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】
医療系の専門学校に通いながら東大ア式蹴球部のフィジカルコーチ兼トレーナーとしてJリーグ入りを目指す米田一稀さん【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】

医療系の専門学校に通いながら東大ア式蹴球部のフィジカルコーチ兼トレーナー

 東京都・神奈川サッカーリーグ1部を舞台に、激闘を続ける東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部。以下ア式蹴球部)。過去には久木田紳吾氏(元ファジアーノ岡山、松本山雅FC、ザスパクサツ群馬)、添田隆司氏(元藤枝MYFC、アミティエSC京都/現おこしやす京都AC)などプロ選手も輩出してきた。

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 そんなア式蹴球部で現在、フィジカルコーチとしてプロ入りを目指す人物がいる。米田一稀さんだ。米田さんは東京学芸大学を卒業したのち、現在は医療系の専門学校に通いながら東大ア式蹴球部のフィジカルコーチ兼トレーナーを務めている。学芸大→東大→専門学校という異色とも言えるルートでプロ入りを目指す米田さんの思いとはなんなのか。インタビューを行なった。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

   ◇   ◇   ◇

 神奈川県茅ヶ崎市で生まれた米田さんは、小学校1年生から地元のサッカークラブでサッカーを始め、高校では県下有数の進学校・湘南高校に進学。高校でもサッカー漬けの日々を送るなかで、ある出来事が訪れた。

「高校3年生の春に鬱になりました。そのためプレーを続けることが難しくなり、やむなく選手を引退してマネージャーに転向したのですが、当初は正直言ってマネージャーの仕事にやりがいを感じることができなかったんです。

 でも周りの運動部のマネージャーを見てみると、自ら望んで熱心にマネージャー活動をしている姿が目に留まりました。自分がつまらないと感じるものを楽しんでいる人がいるという事実に直面して、選手としてしかサッカーと向き合っていなかった自分の視野の狭さを痛感しました。それをきっかけに選手以外の立場からサッカーと向き合うことで視野を広げたいと考えるようになり、マネージャーやトレーナーの業務に興味を持ち始めました」

 そうしてトレーナーとしてのキャリアを始めた米田さんは、東京学芸大学へ進学。入部したサッカー部で学生トレーナーを務めることになる。

「もともと教師になりたかったということもあり、東京学芸大学に進学しました。大学のサッカー部も見学するなかで、学生トレーナーという役職があるのを知り、自分の高校での経験を生かせると考え、入部を決めました。

 そこでの体験は本当に楽しくて、刺激的でした。当時は学芸大学も関東リーグに所属しており、毎年プロも出るような状況で、そういった環境で揉まれるなかで自分もトレーナーとして成長していくのが楽しかったです」

さまざまな環境に身を置き将来のキャリアプランにも変化が出たという米田一稀さん【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】
さまざまな環境に身を置き将来のキャリアプランにも変化が出たという米田一稀さん【写真:東京大学運動会ア式蹴球部】

大学4年時に東京大学ア式蹴球部への移籍を決断「外部でまた一からスタート」

 しかし、大学4年生の時に、東京大学ア式蹴球部への移籍を決断する。

「東京学芸大学蹴球部での学生トレーナー活動も3年が経過し、順調に成長できていると感じていましたが、良くない意味で環境に慣れてしまっていると感じるようになりました。すでに構築された人間関係や上級生という立場があるから活動しやすくなっていることが自分の成長につながらないと感じ、また学芸大蹴球部以外の環境について知りたかったこともあり、外部でまた一からスタートすることが自分の成長になると考えるようになりました。そんな時に、東京大学ア式蹴球部で活動する高校の同期から誘ってもらえて、ア式での指導が始まりました。また、同時に知り合いの方にご紹介いただき、陸上クラブであるVIRDS陸上アカデミーでもコーチを始めました」

 自分自身の成長のために環境を変えた米田さん。さまざまな環境に身を置いて活動するなかで、将来のキャリアプランにも変化が出たという。

「今はトレーナー、特にフィジカルコーチとして働きたいという気持ちが強いです。元々は教員志望で、数学の教員になる予定でした。しかし、教育について学ぶにつれて、教育に携わりたいという思いが強くなるとともに、トレーナーと教育の共通点が多いことに気づきました。教師になるというのは教育への関わり方の1つにすぎず、トレーナー活動もある種の教育活動であると気づいてからはトレーナー路線を意識するようになりました。

 学芸大学も、東京大学も、学生トレーナーは充実していて、みんな熱意にあふれた素晴らしいチームですが、スポーツやトレーナー等に関する知識を学術的に日頃から学べる環境はほとんどありません。それもあって、誰もトレーナーという役職を仕事にしようと思っていないのが現状です。

 そんな環境から、自分がプロになることで、後輩たちに新しいキャリアの選択肢を提示できるのではないかと考えています。そのために、今は専門学校でリハビリに関わる職である理学療法士の資格取得のために勉強をしています。日中は専門学校に行き、夜は部活に向かう毎日で、大学時代よりも忙しい日々を過ごしていますが、専門学校で学んだことをその日の夜に部活で実践できるので、今までよりも格段に成長しているなと感じ、日々充実感でいっぱいです」

育成年代のサッカー環境改善へ「もっと早くから取り組みたかったという声も」

 そう笑顔で語る米田さんが成し遂げたい夢とはなんなのか。米田さんには2つの目標があるという。

「まずはJリーグでフィジカルコーチになること。部活ではトレーナー業務もフィジカルコーチ業務も全部やってきて、そのなかで自分はフィジカルコーチになりたいという想いが強いです。理学療法やリハビリに精通したフィジカルコーチとなることで、怪我明けの選手や怪我をしやすい選手などへの指導の幅を広げることや、トレーナーや理学療法士との連携がスムーズになるような存在になりたいです。

 そして日本の育成年代のサッカー環境をより良くすること。自分もトレーナーとして活動するなかで、大学で初めて身体作りや怪我への正しい処置を知ったという選手を多く見てきたし、身体作りや障害予防についてもっと早くから取り組みたかったという声もたくさん聞いてきました。そういった環境を改善していけるような取り組みを、人生を懸けて行なっていきたいです。教員志望だったということもあり、『誰かに伝えていく、普及していく』という部分は自分だからこそできる得意分野でもあるし、自分がやっていくべき使命でもあると考えています」

 異色のルートから、それでも着実にプロへの道を歩む米田さん。今後の活躍に目が離せない。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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