来日仏クラブが見せた“町田攻略法” J1首位をねじ伏せた世界基準「明らかになった」【コラム】
【カメラマンの目】スタッド・ランスが町田を2-0で撃破…フィジカルのスタンダードを見せつける
7月27日の清水エスパルス対スタッド・ランスを取材して、伊東純也と中村敬斗が所属するフランスのクラブは、これから迎える国内のシーズンに向けて、しっかりと戦っていけるのだろうかと心配になった。そうした思いを感じたのは、なにもスタッド・ランスの選手たちの能力が低いからというわけではない。
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チーム構築のための練習の場には適さない気候である夏の日本へやって来て、日程的にも厳しい親善試合をこなしていく。日本ツアーによってチームはシーズン前に疲労してしまい、指揮官が考えるチーム作りができないのではと懸念がよぎった。
清水戦はゴールを目指す戦術的な連続プレーは随所で見られていたが、フィニッシュプレーまでは作れず0-3で敗戦。公式戦への調整試合のためスコアは重要ではないが、内容的に精彩を欠いたことは、これから進めていくチーム構築に不安を残すものだった。
しかし、そうした思いは取り越し苦労だったようだ。7月も最後の日、スタッド・ランスはFC町田ゼルビアと対戦する。試合を前にしてスタジアムの上空を覆った豪雨は、開始時間を30分遅らせることだけに留まらなかった。篠突く雨によって気温が下がり、ピッチは滑りやすい状態となったが、肉体的には負担が軽減される気候となった。
そして、スタッド・ランスは日本での与えられた環境に順応し、いよいよ本来の力を発揮した。清水戦とは見違える好プレーで観客を沸かす。スタッド・ランスの選手はボールを持つと力強いドリブルで町田陣内へと進出。伊東と中村もダイナミックなプレーでチャンスを演出し、果敢にゴールを目指していった。
ホームの町田は局面での勝負を制し、それをピッチ全体へと波及させてゲームの流れを握るサッカーを武器とするタフな集団だ。だが、スタッド・ランスはその激しいプレーを凌駕する力強さとスピードを見せた。親善試合のためお互いが怪我を考慮して、公式戦のときのような徹底的な激しさを見せていたわけではないが、スタッド・ランスのパワフルさは単独ドリブルに投影され、力強い突破でホームチームの選手たちのマークを跳ね返し2-0で勝利している。
そうした町田のマークを受けても動じないスタッド・ランスの選手たちに注目すれば、伊東と中村の日本人も含めてフィジカルの強さが選手を形作る根幹となっている。この人間の持つ肉体的な強さとボールテクニックが融合したサッカーが、ヨーロッパ主要国に属するチームのスタンダードなのだ。
そして、本領が発揮されたヨーロッパのスタンダードに対して、局面での勝負へのこだわりにおいて、Jリーグでは抜きん出た存在にある町田でも太刀打ちができなかった。
これまでのリーグ戦でも今シーズンの主役の座に就く町田を攻略するには、小手先の技術を捨て、フィジカルファイトに持ち込むことが最良の手段と見られていた。スタッド・ランス戦でも、改めて町田攻略の方法が明らかになったわけだ。
ただ、理論的に戦い方が分かっていても、実際には対戦する相手が町田を上回るフィジカルサッカーをなかなか見せられていない。世界基準で考えれば町田の激しさは、決して特別ではないのに、ほかのJチームはそのスタイルに手を焼いているのが現状だ。
そして、町田にとっては、初の海外クラブとの親善試合となった対スタッド・ランス戦を経験することによって、1対1の勝負への思いはさらに強まったのではないだろうか。
町田以外のJチームには90分間のなかで多くの勝負が存在するサッカーにおいて、核となる局面での争いで、これまで以上に強いこだわりを持って試合に向き合ってほしい。町田に対して当たり前に勝つチームが増えれば、世界のスタンダートへと近づくことにもつながる。
高校サッカーからプロフェッショナルの世界に活躍の場を移した黒田剛監督が率いる町田の出現は、Jリーグ全体のレベルアップのために与えられた試練だ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。