三笘薫の「強引さが目立った」 ブライトンに対抗…J1昇格クラブが得た“怪我の功名”とは【コラム】
【カメラマンの目】ブライトンの一戦では東京Vにも反撃のチャンスがあった
リーグ戦の中断期間を利用して、Jクラブのなかにはシーズンの開幕を前にして来日したヨーロッパのチームと親善試合をこなしている。7月28日には、日本代表MF三笘薫が所属するイングランド1部(プレミアリーグ)ブライトンとJ1の東京ヴェルディが対戦した。
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厳しいコンディション下でのプレーとなるだけに、東京Vはなんらかの収穫を手にしたいところだった。そうした意味では再開するリーグ戦に向けて、プラスとなる経験を得ることができた。
サッカーチームと言うのはシーズンを前にして、そのスタイルが完成するものではない。公式戦を重ねていくうちに課題も見えてきて、その解決に取り組むことによってチームの進むべき方向がさらに明確になり、勝利への道筋が作られていく。
J2からの昇格組である東京Vは、昨シーズンまでリーグの主役となっていたチームと単純に現有戦力を比較した場合、劣ることは否めない。しかし、個人の差をチーム戦術で補い、勝利できるのがサッカーの醍醐味であり、当然だが東京Vもその戦い方の構築に取り組んできている。
東京Vの根幹となるのは守備だ。守備を意識したチームは大崩れすることが少ない。ただ、すべての試合を無失点で終わらせることは不可能だ。そのためチームの武器である守備を崩され得点を許すと、強力な攻撃力を持たないため、どうしても挽回が難しかった。さらに、リーグ序盤では力を入れている守備でも試合終盤に失点を許すなど、勝負弱さを露呈していた。
しかし、リーグ戦も後半に突入した現在はチームとしての戦い方が定まり、逞しさが増してきている。選手間の意思疎通の高まりによって、劣勢の展開のなかでも少ないチャンスとはいえ素早く、そしてシンプルにボールを相手ゴールまで運び、ゴールを目指す流れがスムーズになってきている。この対ブライトン戦でも敗れたとはいえ、失点を許しても勝利への意識は後退せずゴールを目指し続け、反撃のパターンも形作られていた。
東京Vの見せ場はブライトンが展開するサッカーに起因か
ただ、東京Vが見せ場を作れたのは、ブライトンのハイレベルなサッカーに起因していたと考えられる。
ブライトンのスピードに乗ったプレーに対して、東京Vは前線からのプレスを機能させられず、多くの時間で自陣での守備を強いられることになってしまった。ただ、この状況が怪我の功名となる。チームのバランスが後方に置かれたことにより守る、攻めるの意識が判然となり、逆にカウンター攻撃が仕掛けやすくなったのだ。
これが、ブライトンの一方的な展開とはならず、ホームチームが対抗できた要因だ。東京Vにとってはハイプレスが機能せず自陣に押し込められても、ゲームを作れる展開を見出せたことが収穫となったのではないだろうか。
対するブライトンはなによりスピードある正確なパスワークが光った。東京Vのプレスを颯爽と、そして力強く掻い潜り、次々と味方選手にボールをつなげていく。チャンスと見ればドリブルで攻め上がり、敵陣深くまで侵入すればサッカーの定石であるゴール前へのクロスを供給した。
シーズン開幕に向けてチーム構築を進めている段階であるにもかかわらず、集団としてすでにまとまり、そして強かった。2試合のジャパンツアーを行ったブライトンには、世界にその名を轟かせるスーパースターはいないが、選手たちがよくサッカーを知っているオーセンティックなチームという印象を受けた。
チームとしてまとまりを見せたブライトンだが、選手ではやはり三笘の突破力が東京Vにとって脅威となった。三笘はドリブルで前線へと攻め上がり、味方とのパス交換で一度ボールを渡し、そのリターンを受けてさらに深部へと侵入する形ができている。味方が彼のドリブルの威力を活かそうとサポートしているように見え、プレーし易い環境に置かれている。
ただ、そのドリブルで気になったのは力技による強引さが目立っていたことだ。もちろん相手守備陣を切り裂く三笘のドリブルにはダイナミックさがある。しかし、本来のプレーはもっと直線的な動きのなかにも、相手を翻弄する緩急が散りばめられていた。コンディション的に100%ではなく、怪我から復帰してまだプレー感覚が戻っていないのかもしれない。
しかし、彼の魅力はなんと言ってもドリブルによる突破力にある。日本代表の舞台でもワールドカップアジア最終予選が控えているだけに、三笘にはさらにコンディションを上げ、これまで以上の躍進のシーズンとなることが望まれる。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。