森保J、最終予選に向けて感じる「不安要素」 主力組の移籍、監督交代…9月に戦力不透明【コラム】

最終予選に向けて感じる不安要素とは?【写真:徳原隆元】
最終予選に向けて感じる不安要素とは?【写真:徳原隆元】

ステップアップ、新監督のもとでのレギュラー奪取…新シーズン前は環境が一変

 6月6日のミャンマー戦(ヤンゴン)に続き、11日のシリア戦(広島)も5-0で勝利した日本代表。これで2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選は全勝で9月からの最終予選に進むことになった。

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 ご存知の通り、今回の2連戦で、森保一監督は攻撃的3バックをテスト。エースナンバー10・堂安律(フライブルク)が右シャドー、右ウイングバック(WB)、右サイドハーフ(SH)の3ポジションでプレーし2試合連続ゴールをゲット。左WBで続けて先発出場した中村敬斗(スタッド・ランス)もタテへの推進力とゴールに直結する仕事で異彩を放つなど、多くの収穫が見られたシリーズとなった。

 長友佑都(FC東京)の出番はなかったが、彼の後を確実に引き継げる左サイドバック(SB)候補がいないこともあり、日本代表はこのまま3-4-2-1をベースにした方がいいのかもしれない。

 久保建英(レアル・ソシエダ)は「本当に強い相手とやるとなると3バックの成果というのは分からない」と強調したが、3バックなら相手に押し込まれた時に5バックにしてガッチリ守りを固めたり、蹴り込まれた時に跳ね返すことも容易になる。今のメンバー構成を見れば、その方がベターという考え方もある。そのあたりは指揮官も6月27日の抽選会の結果を踏まえ、ベストな方策を模索していくはずだ。

 そのうえで、日本は重要な戦いに挑んでいくわけだが、最終予選は一筋縄ではいかないのが常。「最終予選を4回経験させてもらって、本当にどれも本当に苦しい最終予選だった。特に前回、カタールの時は苦しかった」と長友も語気を強めていたが、その要因の1つに海外組の増加がある。

 今回の6月シリーズも国内組はGK3人と長友、川村拓夢(広島)だけ。それ以外の21人は8月から開幕する新シーズンに備えなければならない。新天地に赴いたり、監督が変わったりする選手は適応に時間がかかったり、コンディションが上がらなかったりすることも多い。そうなれば、当然、9月の最終予選はインテンシティーや強度が上がらなくなり、どこか散漫な戦いになりがちなのだ。

 2021年秋にスタートした前回も冨安健洋(アーセナル)と守田英正(スポルティング・リスボン)が移籍のために初戦オマーン戦(吹田)を回避。鎌田大地(ラツィオ)もフランクフルトから出るつもりだったが、最終的に移籍が決まらず。こうしたメンタル的な部分も響いて、まさかの黒星発進を強いられたのだ。さらに3戦目のサウジアラビア戦(ジッダ)も苦杯を喫し、序盤3戦2敗と崖っぷちに追い込まれた。

 そこから森保監督が基本布陣を4-2-3-1から4-1-4-1に変更し、田中碧(デュッセルドルフ)と守田を抜擢して流れを変えたのは周知の事実だが、チームのエンジンがかかるまで本当に時間がかかった。

 そういった前例を踏まえ、今回を考えてみると、まずこれから移籍する可能性のある選手が数多くいるのが1つの懸念材料だ。DF陣では板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、菅原由勢(AZ)と主力級の多くが動くことになる。

 中盤より前を見ても、鎌田の移籍は確実で、田中や旗手怜央(セルティック)、久保らも可能性がある。

 チームが変わらなかったとしても、監督が変われば立場も大きく変化しがちだ。そこに該当するのが上田綺世(フェイエノールト)、堂安律(フライブルク)、中村敬斗(スタッド・ランス)、遠藤航(リバプール)ら。無風なのは冨安、南野拓実(モナコ)くらい。9月の時点でどうなっているか分からない選手があまりにも多いのだ。

 相次ぐケガに見舞われている冨安や三笘薫(ブライトン)らのコンディションも、やはり気がかりな点。最終予選が始まれば、毎月のように欧州とアジアを行き来することになり、場合によっては東南アジアや中東を三角移動することも起こり得る。披露困憊になった状態で、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)やUEFAヨーロッパリーグ(EL)にも参戦するという超過密日程を強いられる選手もいる。

最終予選は決して楽な道のりでない…引いて守る可能性も

 加えて言うと、新シーズンからはCLが新方式になり、グループステージの試合数は6から8に増える。ELなども同様に変更があるため、そこにも慣れなければならず、欧州トップクラブ所属選手たちの負担は大きくなる一方なのだ。

 だからといって、E-1選手権のように、Jリーグ組だけで最終予選メンバーを構成するのも難しい。というのも、中東勢中心にレベルが上がり、個々のタレント力ではアジア屈指と言われる日本といえども、勝てる保証はないからだ。

 それを選手たちも1~2月のアジアカップ(カタール)で痛感。「(6月シリーズの2連勝で)調子に乗っていると、アジアカップみたいにやられちゃう。その悔しさは自分が痛いほど分かっていますし、自分たちで厳しい声も掛け合っています」と堂安もシリア戦後に語気を強めていた。「アジア枠が8.5枠に広がったから、最終予選は簡単に勝てる」などと楽観視していたら、足元をすくわれる可能性も大いにあるのだ。

 そういう状況だから、森保監督も9月以降の選手選考、チーム編成、戦い方の方向性確認には苦慮するに違いない。やるべきなのは、最善の状態のメンバーを招集して、対戦相手を見ながら最適解を見出すこと。イラクのような空中戦で勝負してくる相手との対戦だったら、それこそ3バックを採用して状況に応じて5バック的に引いて固めることもありだろう。4バックというベースはすでにあるのだから、6月シリーズでトライしたことを実際に使えるようにしておくことが肝心だろう。

 指揮官は前回最終予選に難しい作業を強いられそうだが、アジアを突破しない限り、2026年W杯優勝という目標に向かうことはできない。久保はシリア戦後に最終予選後のマッチメイクについてJFAに要望していたが、余裕を持ってW杯切符を獲得し、1年後に世界の強豪国と戦う権利を得られるのが望ましい。そうなるように、選手たちにはまず所属クラブでの地位を固め、コンスタントなプレーを見せること。そのために、今オフを最大限有効活用してほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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