「J2でも1年出続けたことがない」 欧州1年目20歳MFに現地興奮…クラブ最高7億円移籍金を「もたらす」【現地発コラム】
NECの佐野航大は岡山から欧州挑戦 兄は佐野海舟
ある日、NECナイメヘンの取材を終え、ホッフェルト・スタディオンを出ようとしたところ、サポーターから呼び止められた。
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「佐野航大は最高だ。彼は本当に色々なポジションをこなせるし、テクニックだけでなく守備の強度も高い。近い将来、航大はNEC史上最高額の移籍金をもたらすだろう」
クラブ記録は今季冬の移籍市場、マグヌス・マットソンをコペンハーゲンに売却したときの425万ユーロ(約7億円)。昨夏、J2のファジアーノ岡山から推定45万ユーロ(約7600万円)の移籍金でオランダに渡り、NECと5年の長期契約を結んだ19歳(当時)はシーズン後半から右肩上がりの成長曲線を描くと同時に、何倍もの価値を持つ移籍市場の注目株になった。
「ボランチが一番好き」と語る20歳の佐野だが、NECではボランチに加えて左右ウイング、トップ下、試合展開によってはウイングバック、サイドバックと多機能ぶりを発揮する。直近の5月23日ゴー・アヘッド・イーグルス戦(1-2)では左ウイングとしてスタート。後半、自身のゴールで1-0とすると、ベンチから右ウイングバックを命じられ、やがて1-1になると今度は右ウイングとしてプレーした。他の試合でNECに退場者が出た時、自らの判断で左サイドバックのポジションに入ったこともある。
主に2列目、時にボランチでスタートする佐野は、そのなかでも左ウイングのポジションにつくことが多い。やはり彼は左サイドを得意とするのか? それとも右ウイングに適性があるのか?
「左なんですかね? でも、左だとビルドアップが停滞した時に下がっちゃう癖があるんです。右のほうがサイドに張っていられる気もするし……。でもボールを受けた時は、左のほうが右足でボールを持てるからやりやすい。右ウイングなのか左ウイングなのか、俺も良くわからない。本当、どっちなんだろうという感じです」
ただし、4-2-3-1基調のNECはボール保持時にダイヤモンド型の中盤に可変し、佐野はワイドのポジションから中に絞って“エキストラなMF”に姿を変える。
「中盤は楽しいですね。自分はウイングではなくミッドフィルダー、“8番(攻守のつなぎ役、ダブルボランチの一角など)”のイメージ。(NECのシステムは)自分を出すことができます」
しかも、シーズンラストの3試合で毎試合ゴールを決めるなど得点力も付いてきた。NECのFW小川航基は「オランダのアタッカーはみんなシュートを撃つ。航大の岡山時代はよく分からないですが、彼はそんな(自らシュートを打ちに行く)感じじゃなかった。しかし、なんか自分ですごく行くようになりましたね」と述懐する。こうして佐野はオランダ挑戦1年目で公式戦6ゴール3アシスト(リーグ4ゴール3アシスト、プレーオフ1ゴール、KNVBカップ1ゴール)の数字を残した。
「海外1年目で、しかもシーズン最初の頃は出られずにハーフシーズンで6点というのは悪くはないですが、もっとアシストを伸ばしていきたい。両方できる選手になりたいなと思っているので満足していません」
ハーフシーズンで6ゴール――。オランダリーグ前半戦17節のうち、佐野はすべて途中出場で7試合プレーした。1試合辺りの出場時間はわずか14分。それが後半戦は全試合で先発し、1試合平均82.5分と一気に出場時間を伸ばし、4ゴール3アシストを記録した。
「KNVBカップ決勝戦(対フェイエノールト、0-1)、プレーオフ(UEFAカンファレンスリーグ出場権を争い準決勝で敗退)に出られて、滅多にすることのできない経験ができたオランダ1年目でした。前半戦、試合に関われず、試合に出ることの喜びをまた再確認することもあった。でも、僕はJ2でも1年を通じて試合に出続けたことがない。来季ここで1年通じてプレーして、始めの試合と最後の試合のパフォーマンスに(悪い意味で)差があったらダメなので、シーズンを通じていいパフォーマンスを出しつつ、10ゴールを目指してやりたい。練習でコツコツやることが1番だと思うので、100%で常に挑んでもっと成長した姿をピッチでお見せします」
「多機能性という武器を活かしてぜひ出場したい」とパリ五輪出場を虎視眈々と狙う若武者は「ゆくゆくはA代表に入って、お兄ちゃん(佐野海舟)とボランチを組みたい」と夢見ている。
(中田 徹 / Toru Nakata)
中田 徹
なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。