ルートン橋岡がチームにぶつける熱 「喧嘩するくらいで」…守備修正から見える残留への希望【現地発コラム】
劇的な形で1月30日以来の勝ち点「3」を手にしたルートン
去る4月6日、イングランド1部ルートン・タウンはプレミアリーグ第32節でボーンマスを下した(2-1)。試合終了の笛が鳴ると、ベンチで両脇のチームメイトと肩を組んで喜んでいた橋岡大樹。続いて、小走りで後半17分に降りていたピッチ上へ。そこには、次々に新たな同志たちの労をねぎらい、祝福のハグで勝ち点「3」奪取を讃え合う新DFの姿があった。
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待望の白星だった。降格圏内18位のルートンにとっては、現地時間1月30日の第22節以来(ブライトン戦/ホーム/4-0)。同日に移籍した橋岡にとっては、ルートンの一員として初めて味わう勝利の喜びだ。
劇的な幕切れでもあった。後半7分に奪われたリードを帳消しにしたのは、試合も終盤に入った同28分。足を止めないセンターハーフとして、この日のマン・オブ・ザ・マッチに値する働きを見せたジョーダン・クラークが、ゴール右下隅に力強く決めた。逆転成功は同45分。1トップのカールトン・モリスが、センターフォワードらしいフィニッシュで1か月ぶりにネットを揺らしている。
しかも、アウェーでの第28節では、3点差をひっくり返されていたボーンマスを相手に、前回対決での借りを返したことになる。6分間の後半アディショナルタイム中、ケニルワース・ロードでは、チームの背中を押すルートンサポーターたちのボリュームが「10」から超最大の「11」まで上がっていた。チームと同じく、諦めることなど知らない満員のホーム観衆は、心の中で選手たちと一緒にボールを蹴っていた。
その「12人目」から、逆転劇が展開される前の62分間ではあったが、空中戦や1対1の場面が訪れる度に「カモン、ハシ!」と声を掛けられていた橋岡は、試合後、開口一番にこう言った。
「もう、自分はどんなことができた、できていなかったに関係なく、勝利したことが嬉しい。本当にチームとして、このいい波に乗れるんじゃないかなと思います」
自身の出来は、可もなく不可もない及第点といったとろころだろう。
「僕自身は本来のウイングバックのポジションでやって、もっと見せないといけない部分もありましたけど、何よりチームが勝てた。チームみんなで勝って、残留に向けてやりたいっていうのがあったので、本当に良かった」
インパクトを残せなかった攻撃
プレミアでの先発は2戦連続となった。だが本人も触れた通り、移籍先でも本職と理解されている右ウイングバックとしての先発は初体験。3バックの右ストッパーとして先発した前節アーセナル戦(0-2)、移籍後初の90分をこなした橋岡について、ロブ・エドワーズ監督は次のように言っていた。
「ハシには負担を掛けてしまっている。本来とは違うポジションを任せることが多いが、力の限りを尽くしてくれているよ」
続く「We love him」の一言には、その言動に情熱があふれるエドワーズ監督らしく、感情がこもっていた。
その指揮官からは、本来のポジションでの先発に際して「特に指示はなかった」と橋岡。しかし、当人の意図は開始直後から見て取れた。前線右サイドのアンドロス・タウンゼンドとパスを交わして上がり、スルーパスに反応しようと試みるまでには3分とかかっていない。前半4分には、1本目のクロス。自らのパスで味方を裏に抜けさせようとしたのは同25分のことだった。
ただし、スルーへの反応は出し手となったクラークと呼吸が合わなかった。クロスは直接シュートチャンスにはつながらず、ライン越しのパスはやや距離が出過ぎ。右ウイングバックとして、強烈なインパクトを与えるには至らなかった。橋岡自身も言っている。
「映像を見てみないと分からないですけど、チームとしてもう少しボールを持つ状況があったら、裏にパンって抜けるような動きとかももっとできたらいいなと。そういうのは多分、1試合目からすぐにはできないと思う。試合を重ねていくごとに、今回はここがダメだったら次回こうしようっていう風になっていくと思うので。いい学びになりましたし、もっともっとできるのかなと思う。
移籍した時に監督から最初はしっかりプレミアに慣れてって言われたので、今、出場機会をもらえているのは嬉しいですけど、自分の良さを出さないといけないとは思っています。(今日は)もらったら仕掛けようと思っていて、でも仕掛けるだけではなくて、クロスもいい質のものを上げないといけなかったし、縦に仕掛けるだけじゃなくて、中の人を使ったワンツーだったりも、もっと。そこは、これからもやっていければ」
「弱気になっちゃいけない」 チームの守備修正に向けた強気の覚悟
では、守備面はどうか。橋岡個人は、やるべきことはやっていた。自軍コート内で、敵が一旦戻そうとしたパスをインターセプトしたのは開始早々の2分。20分過ぎには、橋岡のプレッシングが中盤でのポゼッション奪回につながった。
だが、チームとしては、ボーンマスが仕掛けた後半1度目の攻撃らしい攻撃で先制を許している。ルートンの守備は、指揮官も「ある意味ユニーク」と認めるマンツーマン。アーセナルを相手に後半は追加点を許さなかった前節、守備を修正すべく度々周囲と言葉を交わしていた橋岡の次の試合後コメントが印象的だった。
「日本人だからといって弱気になっちゃいけないと思うし、試合中に意見をバンバン言い合う、喧嘩をするくらい(の覚悟)でいいと思う。そのくらい言い合って、意見をぶつけ合って、納得するまで『こうしよう』っていう風に試合中でもやれば、それもいいコミュニケーションではあると思うので、そういったところをまた続けていければいいなと思います」
この日も、手応えはあったようだ。
「修正できるチームだと思うので、そこはもの凄くいいと思う。今日も、徐々に徐々に。前半(失点)ゼロで抑えた後に、後半はこうしようっていう指示もあって、そこで失点はしてしまいましたけど、後半の残りは上手くいっている部分もあったので、やっていけると思います」
次節は、ポゼッション(56%)でも負けなかったボーンマス戦とは違い、リーグでの前回は自分たちのホームでもボールを支配された(65%)“常攻”集団マンチェスター・シティにアウェーで挑む。橋岡にすれば、後半にベンチを出てデビューを果たしたFAカップ5回戦で、いきなり大敗(2-6)を経験させられた相手でもある。
シティの4倍近い11人の故障者を抱えてもいるルートンは、対戦前から逆境に置かれているような状況だ。複数ポジションを任される日本代表DFは、この日は右ストッパーでフル出場だったイッサ・カボレがレンタル元との対戦で出場不可のため、3バックで代役を務めることになるかもしれない。
しかし、そこはルートンであり、橋岡である。
「どこのポジションで出ても、たとえスタメンではなく途中から出たとしても、いい結果を残せるように頑張りたい。みんな、今日みたいに自信を持ってできるので、勝てる力は全然あると思う。自信持ってやって、2試合連続で勝てればいいなと。(相手が)シティだからもうみんな諦めているっていうわけでは絶対になくて、しっかり勝ちにいく」
タフなサバイバルレース戦いは続く。そして、厳しい状況下でも改善しながら一丸となって挑む、ルートンと橋岡のプレミア残留への望みも。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。