ACL壮絶敗退の川崎に芽生える“新鮮な活力” 田中碧や中村憲剛の喪失感を埋める可能性も【コラム】
ACLラウンド16で敗退した川崎、表れ始めている補強の成果と収穫
川崎がACLのラウンド16で山東泰山に逆転負けを喫した。
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アウェーの初戦を3-2で勝利して折り返した川崎だが、逆にそれが追い込まれた山東の潜在力に火をつけた感が強い。
山東は、横浜FM、仁川と三つ巴で大激戦となったグループGの最終戦を、昨年12月に日産スタジアムで迎えている。この時点で勝ち点12を挙げ首位に立つ山東は、横浜FMとのアウェー戦では5バックで完全な守備的戦術に徹し、エースストライカーのクリサンも孤立無援で苛立ちを隠せなかった。結局この試合は終始、横浜FMがゲームを支配し3-0で圧勝している。
だが川崎とのセカンドレグに臨む山東は、横浜FM戦とはまったく別のチームだった。グループステージを終えたあとに、蔚山からジョージア代表のヴァレリ・カザイシュビリを補強し、フォーメーションも4-3-3に変更。序盤から積極的なプレッシングを仕掛けて攻勢に出た。8分にはインサイドハーフのリー・イェンリーが川崎のセンターバック大南拓磨のボールを奪ってクリサンの先制弾を導くと、25分には脇坂泰斗のコーナーキックを直接奪って一気に3本のパスでカウンターを結実する。これ以上望めない滑り出しで、川崎の出鼻を挫いた。
鬼木達監督は「どんな相手でも受けてしまうと簡単に押し込まれてしまう」と振り返ったように、結果的には横浜FM戦とは一転して躊躇なく攻撃的姿勢を貫き通した山東が打ち合いを制することになった。かつて韓国代表を率いた山東のチェ・ガンヒ監督は、状況に応じて戦術を使い分けるタイプで、そういう意味では「常に敵陣で攻撃し続ける」ことを標榜する鬼木監督とは対照的。横浜FMとのアウェー戦ではまったく凡庸に映ったチームを、川崎を相手に急変貌させることに成功した。
しかし壮絶な打ち合いの末に散った川崎も、これがリーグ開幕を控えた状況だったことを踏まえれば収穫は少なくなかった。まだ入れ替わったブラジル人選手たちの力は未知数だが、ACL初戦から総入れ替えをして神戸に勝利したスーパーカップも含めて、すでに日本人選手の補強の成果は表れ始めている。
山本悠樹と三浦颯太が感じさせた可能性、昨季から模様替えも層の厚さは着実に向上
特にG大阪から獲得した山本悠樹と、甲府から加入の三浦颯太は、互いのコンビネーションだけでも何度か見せ場を作っており、今シーズンの大きな上乗せ材料として注目を集めることになりそうだ。山本はワンタッチの妙、タメを作ってからの独特の視野で局面を切り拓く貴重なタレントで、田中碧や中村憲剛の喪失感を埋める可能性を秘めているかもしれない。
一方三浦は、攻撃面だけに焦点を絞れば、日本屈指の左サイドバックだ。ボールを持てば常に主導権を握り、自信を持ってアグレッシブな仕掛けができる。もちろん守備面での課題は残るが「攻撃し続けること」がテーマの川崎なら十分にフレッシュな特徴として機能するはずだ。
鬼木監督は最大の敗因を「多くのチャンスを決め切れなかった」と語った。確かに明暗を分けたのは両ゴール前の質になるので、山東はクリサンの破壊力がモノを言い、川崎側ではジェジエウが万全でなかった(終了間際にパワープレー要員として交代出場)のが痛かった。だがだいぶ模様替えした川崎は、確実に層の厚さを増し、そこから昨年以上の新鮮な活力が芽生えている。豊富な戦力から最適解を導き出すのは決して簡単な作業ではないが、そのメリットを上手く生かすことができれば、再び魅力的なリーダーとして君臨する可能性はある。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。