「今の力では足りない」 J1昇格の磐田、監督&ベテラン川島が語る名門復活への鍵【コラム】

今季J1で戦う磐田【写真:徳原隆元】
今季J1で戦う磐田【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】静岡ダービー敗戦後の「すべてを失ったわけではない」の一言が転機

 ジュビロ磐田のJ1自動昇格はまさに薄氷を踏む思いだった。昨季はリーグ開幕当初、勝ち点を積み上げられず低空飛行が続き、二桁順位に沈むこともあった。そうした順位をなかなか上げられない我慢の時期が続いたが、徐々に上昇カーブを描いていき、第42節となる最後の一戦で栃木SCに勝利し、J1で再び戦うための切符を勝ち獲った。

 サッカーチームの構築には時間がかかる。まして新任の指揮官を迎えると、その人物がどんなに優秀な監督でも、時間を要するのはサッカーの常だ。とはいえ、2023年シーズンの磐田はかなり厳しいスタートとなった。

 スタートダッシュ成功とならかなったチームの序盤を、横内昭展監督は「試合を重ねるごとに上手くいくシーンも増えていったが、序盤は勝ち点を積み上げることができなかった」と回想した。

 しかし、転機が訪れる。アウェーの第8節水戸ホーリーホック戦で5-1の勝利を挙げる。この試合は「その前からも自分たちが目指していたものが形になりかけていたが、勝ち点を取れなかったり、勝ち点1で終わっていたところで結果が出たのが水戸戦。自分たちがやりたいことが形になって表れ、選手も自信を掴んでくれた」と、横内監督は言う。だが、この時点での磐田の成績はJ1昇格を現実のものとするにはまだ遠い中位に位置していた。

 一朝一夕にはいかないチーム構築の難しさについて横山監督は「結果が求められていることは、受け止めないといけないなとは思っていましたが、自分がやろうとしていることは、時間がかかると思っていた。そういう意味では僕だけでなくて、クラブも我慢してくれたと思う」という我慢の時期を過ごし、チームは持ち直し昇格を狙える位置までジャンプアップしていく。

 しかし、終盤になって大きな試練がまっていた。それは第38節の清水エスパルスとのダービーマッチでの敗戦(0-1)である。

「静岡ダービーに負けた直後はすべてを失ったと思った」と、さすがに指揮官も大きなショックを受けた。しかし、この敗戦がチームに奮起を促す。

「ロッカールームでは、今日の勝ち点3は失ったが、すべてを失ったわけではない。まだ4試合残っている。しかもプレーオフもある。チャンスが残っているのにそれを放棄するつもりなど自分にはないし、最後まで選手たちに戦ってほしいと言いました」

 この指揮官の思いが選手たちに伝播する。

「そこで選手たちも気持ちを切り替えて、プレーオフを戦ってまでも昇格するんだと言う顔つきになってくれた」

磐田に加入した川島永嗣【写真:徳原隆元】
磐田に加入した川島永嗣【写真:徳原隆元】

新加入のベテラン川島は守備面の「伸びしろ」に期待

 この勝利への執念とも言える強い意志は残りの試合で発揮され、最終節でJ1自動昇格の2位を確保することになる。横内監督は1つの負けを引きずらず連敗しなかった選手たちのリバウンドメンタリティーを高く評価した。

 そして、「選手たちが焦らず、少しずつだが進歩していることを自覚しながら我慢して戦い続けられたことが一番、大きかった。本当に(集中力が切れてしまう)ギリギリのところだったと思うが、バラバラにならずにやれたのが、最後のあの試合につながった」と自動昇格への要因を語った。

 こうして迎える2024年シーズンで、磐田は4人のブラジル人を含む15人もの選手を獲得する大型補強を敢行した。横内監督はそのメリットをこう説明した。

「キャンプ初日から競争の意識が芽生え、選手がトレーニングに出す力が昨年とは全く違うと感じている」

 さらに、チーム構築に関しても「大きく言えば、去年のキャンプに比べると前倒しで出来ていることが多く、どれぐらい上かは分からないが、すべてでもう1つ上のランクのサッカーがやれるようになっている」と自信を見せている。

 その新たに加入した選手のなかには世界の舞台でしのぎを削ってきたGK川島永嗣もいる。2月2日の時点ではまだ、実戦経験となる試合形式でのプレーは1月31日に行われた大学生とのトレーニングマッチ(30分×3)での30分間しかなかったが、この経験豊富なGKに磐田の現時点でのオフェンスとディフェンスの印象を聞いた。

「攻撃は横さん(横内監督)が考えているサッカーを去年からやっている選手たちに、新しい選手が加わったことでプラスアルファの部分が出せると思います。守備で言えば、J1でやるには今の力では足りないというのは理解しています。キャンプでもそういうイメージを持ってやれているので、実際にそういう思いを出していければ、いい形で守備ができるきっかけになると思います。まだまだ守備面では伸びしろがある」

 横内監督が「未来のジュビロをさらにステップアップさせるための強化」と評したメンバーでJ1を戦う磐田。名門復活の始まりとなるか。2024年は磐田の歴史の中で、復活への分岐点として刻まれるシーズンになるかもしれない。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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