久保建英には「スピードや閃きがある」 7戦無得点もスペイン人記者が擁護「彼ほどゴールを決めるのは珍しいことだ」【現地発】
CLベンフィカ戦で先発の久保、3人に囲まれるも高いキープ力からゴールの起点に
久保建英はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のベンフィカ戦で2ゴールの起点となるプレーで活躍し、レアル・ソシエダは2節を残して、20年ぶりに決勝トーナメント進出を決定させた。
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先週末に行われたラ・リーガ第12節FCバルセロナ戦、久保は右サイドで好プレーを見せ、チームも内容で上回ったにもかかわらず、アディショナルタイムに決勝点を許してしまい、0-1で敗れた。
しかし選手たちにこの敗戦を嘆く時間などない。その4日後に控えたCLグループステージ第4節ベンフィカ戦に向け、すぐさま気持ちを切り替えていた。決勝トーナメント進出が決まる可能性のある重要な一戦とあって、イマノル・アルグアシル監督はフィジカル面に問題を抱えたアマリ・トラオレをアリッツ・エルストンドに入れ替えただけで、できる限りのベストメンバーで臨んだ。
ソシエダの本拠地レアレ・アレーナは試合前から大雨が降るあいにくの空模様。約1500人のベンフィカサポーターが押しかけ、試合前から発煙筒を焚き、CL開幕から3連敗と苦境に立たされたチームを鼓舞する。これに対し満員の会場中からブーイングが飛ぶ興奮状態のなか、右ウイングで先発出場の久保は4-3-3の定位置でスタートした。
ベンフィカはここで勝てなければ決勝トーナメント進出の可能性が潰える状況だったが、ソシエダは付け入る隙を与えなかった。今季最高と言えるパフォーマンスを発揮し、立ち上がりからチャンスの山を築いていく。
試合が動いたのは前半6分、久保が右サイドで3人に囲まれながらも、最近特に磨きのかかる高いキープ力から冷静にアンドレ・バレネチェアにパスを通し、ミケル・メリーノの先制点のきっかけを作った。
さらに前半19分、ペナルティーエリア内で2人をかわしてクロスを上げてスタンドを沸かせると、続く21分には久保のパスを起点にバレネチェアが素晴らしい個人技からチーム3点目を記録した。
後半に入ると、追い詰められたベンフィカが調子を上げて1点を返し、リードしているソシエダが無理せずゲームをコントロールしたことで、右サイドにほとんどボールが入らず、久保の見せ場はほとんどないまま、25分に交代した。
この日1本もシュートを打てず、バスクダービーを最後に公式戦7試合無得点が続き、CL初得点の夢が叶わなかった久保に対し、サポーターはレアレ・アレーナではもはや恒例となったスタンディングオベーションで健闘を讃えた。
チームは3-1で勝利してCL3連勝を達成。Dグループ成績は4試合3勝1分の勝ち点10で、インテル(イタリア)と並びながらも得失点差で首位の座をキープし、2試合を残して20年ぶりに決勝トーナメントへと駒を進めたのだった。
ノーゴールに悔しさを滲ませる久保「自分もっていう思いがある」
久保は試合後、「点を取りたがったけど、僕のサイドから崩すことが多かったので監督も分かってくれると思う」と自身のパフォーマンスに納得するも、「みんなが点を取っていると嬉しいが、自分もっていう思いがある」と悔しさも口にした。
また右サイドで相手3人に囲まれる厳しいマークに遭ったことに関して、「本当だったら逆サイドでもああいうことやってくれたら、僕も楽に点を決められる」と冗談混じりに言いつつ、「でもチームとして勝てるのが1番。とりあえずCLの台風の目になれているんじゃないかな、と今のところは思う」と話し、強豪チームがいるなか無敗でグループ突破を決めたことに自信を覗わせた。
この日の久保に対するクラブ地元紙の評価は若干分かれる結果となった。
「ノティシアス・デ・ギプスコア」は、「いつもどおりの素晴らしい出来だった。今季の久保で最も印象的なのは常に安定していいプレーを見せていることだ。右サイドでベンフィカに多くのダメージを与え、1点目のプレーを生み出し、3点目のプレーを作り出した。後半は疲労が感じられたが、この試合では全員が奮起したので、あまり久保を探し求めることはなかった」と寸評し、8点(最高10点)と高評価した。
もう1つの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」は、「ラ・レアル(ソシエダの愛称)が攻撃面で久保のほかにも多くのリソースを持っているのを見られるのは喜ばしいこと。久保は電光石火のスタートを切り、1点目と3点目の起点となったが、全般的にチームは逆サイドでより効果的だった。しかし多くの場合においてそれは、久保がボールを持っている時に相手に威圧感を与えた結果でもある」と、ほかの選手たちの働きのほうが大きかったと判断し、最近の久保にしては低い3点(最高5点)をつけた。一方、全国紙「マルカ」、「AS」はともに2点(最高3点)と、久保に対して十分な評価を与えていた。
スペイン人記者は久保の好調ぶりを高く評価「非常に良くやっていると思う」
試合後、サン・セバスティアンの日刊紙「ガラ」のホセバ・イトゥリア記者から、この日の久保に関する見解を聞くことができた。
「今日も久保は今季これまでと同じように良いプレーをした。彼にはスピードや閃きがあり、それが先制点にも表れていた。あのシーンで彼は、1人で3人のディフェンダーを引き付けながらバレネチェアに絶妙なパスを送り、プレーの起点となった。ほかの試合と比べると、今日は主役らしい働きはなかったかもしれないが、ボールを持つ状況が少ないなかでも調子の良さをアピールしていたよ」
さらにホセバ・イトゥリア記者は、久保が最近得点から遠のいていることにも言及。今季ここまでリーグ戦11試合5ゴール2アシスト(公式戦15試合5ゴール3アシスト)の22歳レフティーに対して、次のように擁護した。
「ウイングでプレーする選手で、彼ほどゴールを決めるのは珍しいことだ。そのためこのシーズン序盤、ゴールという点で久保は非常に良くやっていると思う。毎試合ゴールを決めることなんてできないし、すべての試合で彼に得点を求めてはダメだ。仮にしばらくの間、無得点に終わったとしても、スペイン1部でサイドアタッカーがゴールを決めるのは簡単なことではない。だから得点面に関して、今の久保に特に問題はないと思っている」
もしかしたらこの意見がレアレ・アレーナで毎回、久保にスタンディングオベーションを送るサポーターの総意なのかもしれない。
久保は中2日(現地時間11月11日)でラ・リーガ第13節アルメリア戦に臨んだあと、代表チームに合流し、北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選でミャンマー、シリアと対戦する。左足大腿部のテーピングについてベンフィカ戦後、「特に問題ない」と話したが、過密日程に加え、長距離移動による疲労の蓄積が懸念され、フィジカル的に厳しい戦いが続くことになる。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。