開幕2戦3発のケイン、新天地バイエルンで活躍もまだ“結果”のみ 能力からすれば封印状態、本格稼働はこれからだ【コラム】

今夏バイエルンに移籍したハリー・ケイン【写真:ロイター】
今夏バイエルンに移籍したハリー・ケイン【写真:ロイター】

トッテナムから移籍のケイン、ここまで十分な結果も独特のキックとアシストに今後注目

 バイエルン・ミュンヘンの新戦力、ハリー・ケインが2試合で3ゴールと期待に応える活躍を見せている。

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 プロデビュー直後にはローン移籍もしているが、14年間在籍したトッテナムを離れてドイツに来たストライカーは30歳。イングランド代表のキャプテンで最多得点記録保持者でもある。バイエルンでプレーするプレッシャーについて聞かれたトーマス・トゥヘル監督は、「もっとプレッシャーのかかるなかでプレーしてきた選手だよね」と話していたが、経歴と実力に疑問の余地はない。

 ただ、バイエルンでのケインはスパーズ時代と違って今のところプレーエリアを制限されているようだ。得点力だけでなく、引いた位置からのパスも非常に上手いのだが、バイエルンではほとんど前線に張っている。そのせいか試合から消えている時間も長く、プレシーズンマッチではあまりにもボールタッチ数が少なくて話題になっていた。

 開幕してみると、ブレーメン戦でフリーになれたチャンスをしっかり決めて1点目。第2節のアウクスブルク戦はPKを真ん中に蹴り込んで2点目。さらにアルフォンソ・デイビスのクロスをダイレクトで合わせGKの肩口を抜いて3点目。デビュー戦から2試合で3得点したのはバイエルン史上で3人目だという。

 3つのゴールはいずれもそれほど難しい状況ではなかったが、きっちり決め切るところはさすがだ。かつてヨハン・クライフは「GKとの1対1が3回あっても決まらないのがアマチュア、すべて決めるのがプロ」というようなことを言っていたが、簡単に見えるチャンスでも決め切るのは簡単ではない。

 結果は出している。しかし、ケインの能力からすればまだ実力の半分も出していないと思う。アシストの上手さに関しては、まだ封印されている状態だからだ。

 柔らかいボールタッチのポストプレーもさることながら、キック力がずば抜けている。高速のクロスボールや、疾走する味方の目の前に置いてあげるようなロングパス、ピンポイントのスルーパスなど、多彩さと精度がある。ケインの右足から放たれるボールはほかの選手とはどこかひと味違っている。強いのに柔らかい。蹴ったボールの音も違う感じがする。

 ロベルト・カルロスを初めて見た時、その強烈なキックとともにスタジアムに響き渡るような聞いたこともない破裂音に驚かされたものだが、ケインの場合はドスンという重低音系。軽く蹴っているのに速くて重い球が行く。

 ストライカーは「結果」とよく言われるが、結果を出すのはキックの質だ。どんなに巧妙にボールを扱い、ドリブルでかわしても、それが得点やアシストになるかどうかはキック次第である。

 2試合を終えた時点でのケインは十分な結果を出しているが、まだ結果しか出していないとも言える。本格稼働はこれからで、その時は独特のキックの上手さがより発揮されているはずだ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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