岐阜は「J2に復帰しないといけない」 上野監督が指揮官初挑戦で目指す理想のサッカー、痛感した森保監督の苦労【インタビュー】
アグレッシブにゴールを目指すために、基本の「いい守備からいい攻撃」を重要視
FC岐阜は今季、日本代表のコーチも務めた上野優作氏を新監督に迎え、「躍動感のあるフットボールを展開し、アグレッシブにゴールを目指すチーム」を目指してきた。夏場の6戦未勝利(4分2敗)を乗り越え、J2昇格圏内の2位とは勝ち点6差の4位と再び上位争いに食い込んできたチームの状況を、49歳の“ルーキー指揮官”に訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)
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岐阜は昨季、開幕前にDF宇賀神友弥、FW田中順也と元日本代表コンビを補強。2021年に加入したMF柏木陽介、MF本田拓也(22年限りで現役引退)、FW石津大介(現テゲバジャーロ宮崎)、MF菊池大介(23年にフットサルプレーヤーに転身)らJ1経験者を数多く擁する強力な陣容でシーズンに臨んだが、14位(10勝7分17敗)フィニッシュに終わった。
J2復帰を目指す岐阜の代表取締役社長を務める小松裕志氏は、栃木SC、浦和レッズでトップチームからアカデミー、2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表のコーチとしてベスト16入りしたチームを支えるなど、幅広い指導実績を持つ上野氏に監督初挑戦の場を用意した。「ずっと監督をやりたかった」上野氏にとっては、これまで携わった監督全員がロールモデルだという。
「誰が目標、参考とか、恐れ多くて言えないです(苦笑)。今まで自分が指導していただいた、あるいは一緒に仕事をした監督さんの影響をすごく受けています。(2021年から日本代表で監督とコーチの間柄だった)森保さんに関してはチーム作りや、一体感を持たせるところを学ばせてもらいました。同じJ3で、テゲバジャーロ宮崎の松田(浩)さんは僕が(2010年に栃木SCで)最初に指導者になった時の監督で、本当に勉強になりました。ミシャさん(北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督)も、僕は選手として指導をしてもらいましたけど、すごく影響を与えてくれた方です。反町さん(反町康治JFA技術委員長)もそうですし、いろんな指導者さんのいいところを学んで、今の自分があると思っています」
上野監督は監督就任時、「躍動感あるフットボール、アグレッシブにゴールを目指すチームを作っていきたい」と話した。しかし、そのベースとなるのは、森保監督も日本代表で重要視してきた「いい守備からいい攻撃」のマインドだ。
「『いい守備からいい攻撃』は、本当に基本中の基本。自分たちで攻撃を構築して、敵陣に入って、ボールを支配して点を取るというやり方はもちろんなんですけど、やっぱり守備をおろそかにするつもりは全くないです。しっかりと守備をして、いい守備から相手の陣形が崩れてるうちに、いい攻撃をして点を奪っていくっていうところは大事にしています。ただ、なかなか思うような形で点が取れてなくて、そこが今一番の課題だと感じています」
好不調の波をいかに抑えられるか
岐阜は4月8日のJ3第6節愛媛FC戦(1-2)から4連敗を喫した際には、順位も20チーム中18位まで低迷した。しかし、5月14日の第10節讃岐戦で連敗をストップすると、7戦負けなし(5勝2分)と巻き返し。7月9日の第17節奈良クラブ戦(0-1)以降の5試合で3分2敗と勝利から見放された時期もあったが、直近のFC今治戦(2-1)、AC長野パルセイロ戦(5-1)と2連勝を飾り、4位まで浮上している。
ベテランの柏木が右アキレス腱断裂を乗り越えて5月28日の第11節カターレ富山戦(1-0)で約8か月ぶりに公式戦復帰したなかで、チームの課題について上野監督は「少し波がある」と語る。
「チームはいい時と、ちょっと元気がなくなってしまう時がはっきりしている状態で、なかなか勝ち星に恵まれない時期もありました。でも、選手たちは真摯にトレーニング、試合に取り組んでくれているので、この先、必ず上に上がっていけると考えています。柏木の復帰でボールを動かせるようになり、攻撃の質も上がりました。でも、相手は対策として引いてくることが増え、崩すのは容易ではない。なんとかこじ開けようとしていいところまでは行くんですが、ゴール前に相手の人数がいてなかなか点が取れないのが現状です。もう少し素早く、相手が揃う前に攻めないと、なかなか点は奪えないのかなと思います」
監督初経験を経て、日本代表のコーチ時代にそばで見てきた森保監督と苦労が一層分かるようになったと、上野監督は笑う。
「森保さんに一度お会いした時に、『森保さんの苦労がよく分かりました』という話はしました(笑)。監督の大変さというか、監督として頭を悩ませる部分は、予想はしていましたけど、自分が実際に監督になってみて実感しました。当然選手が向けてくる視線も、コーチと監督に対するものでは違います。(コーチだった)僕と話す態度が違うこともあるし、やっぱり監督は特別なんだなと思います。逆に、今、FC岐阜はコーチングスタッフが選手たちとよくコミュニケーションを取ってくれて僕を支えてくれていますし、選手ともすごくいい関係を築いてくれているので、そこは非常に助かっています」
J2昇格を懸けた終盤戦の鍵はフィニッシュの精度アップ
指導者としてのポリシーに「プレーヤーズファースト」(選手第一)を掲げる上野監督は、「J3はいろんなカラーがあるチームが多くて、個性的な監督さんが多い。そういう相手と戦うのは非常に難しいというか、毎試合毎試合、いろんな対策を立てなきゃいけなくて一番頭を悩ませるところです」と語り、J2昇格に向けて終盤戦のポイントを挙げる。
「チーム状態は、守備の部分、特に失点はなんとか少なく抑えられています(23試合消化時点で20失点はリーグ3位)。ただ、(リーグ10位の28ゴールと)得点がなかなか取れていないので、やっぱり最後の点を取っていくところに重きを置いてやっていく必要がある。当然私が掲げたボールを運んでテンポよく相手ゴールに迫っていくのもそうなんですけど、それだけで点が取れることもない。守備からカウンターのところも大事にして、点を取っていきたいです。
監督としては、選手はどうやったら輝くか、選手がどうやったら前を向いてプレーできるかと常々考えています。選手も人間なので、当然調子がいい選手もいれば良くない選手もいて、試合に出ている選手もいれば出ていない選手もいる。勝敗も大きく影響しますし、チームをまとめていくのは難しい反面、そこが楽しさでもあり、監督としては一番大事なところだと思います。FC岐阜はJ2に復帰しないといけないクラブ。これから必ず上昇気流を掴みたいと思いますので、ファン・サポーターのみなさんは引き続き応援をよろしくお願いします!」
上野監督率いる岐阜の挑戦は、ここからが真価を問われることになる。
[プロフィール]
上野優作(うえの・ゆうさく)/1973年11月1日生まれ、栃木県出身。福岡―広島―京都―新潟―広島―栃木。J1通算223試合27得点、J2通算83試合23得点。現役時代は大型FWとして活躍し、2010年から指導者の道へ。栃木でコーチ、ヘッドコーチ、アカデミーダイレクター兼ユース監督、浦和ではユースコーチ、育成ダイレクター兼ユース監督、トップチームヘッドコーチ、日本代表コーチを経て、今年から岐阜の監督を務める。
(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)