混戦のJ3・前半戦「勢力図」を考察 愛媛が首位も勝ち点が近接…10位以下の大逆転もあり得るか
【識者コラム】ほぼ週1ペースで進行するJ3は第17節まで消化、混戦のなかもうすぐ折り返しへ
J3リーグは、ここまで第17節まで消化。前半折り返しまであと2試合となった。「FOOTBALL ZONE」では、「前半戦通信簿」と題してJ3クラブのここまでをチームごとに考察。大混戦となっている昇格、降格争いに注目した。(文=河治良幸)
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もはや先が読めない大混戦。J3の勢力図をみる。
J3リーグは残り2節でようやく折り返しとなる。開幕が3月4日スタートとJ1やJ2より遅く、ほぼ週1ペースで進行しているためだ。そうは言っても北は青森、南は沖縄まで、全国にクラブが散らばっており、J1のように関東や関西に密集していないので、タフなリーグであることは間違いない。
今シーズンこれまでと大きく違うのが、Jリーグが当面の上限に定める20クラブ構成となり、初めて降格制度が導入されたことだ。最下位はJFLに自動降格、19位の場合はJFLの当該チームがJリーグの入会条件を満たしていた場合、入れ替え戦となる。今回はその可能性も含めて勢力図をまとめたい。
2枠のJ2昇格を争う戦いは混沌を極めている。頭ひとつ抜けているクラブが1つもなく、前節まで首位だったカターレ富山も愛媛FCに4-3で敗れて3位に後退した。代わって首位に立ったのが愛媛FCだが、開幕戦いきなりホームで、いわてグルージャ盛岡に1-5の大敗を喫する苦しいスタートだった。
しかしながら石丸清隆監督が率いて2年目となる愛媛はムードメーカーでもあるベテランの森脇良太を中盤の要として組織がまとまり、佐々木匠を中心に創造性のある攻撃を繰り出しながら、接戦でも勝負強さを発揮している。その愛媛も現在15位のY.S.C.C.横浜や18位の福島ユナイテッドに敗れて勝ち点を落とすなど、たとえ上位と下位の対戦であっても、本当に紙一重の試合が多い。
下馬評では昨シーズン3位で惜しくも昇格を逃した鹿児島ユナイテッド、4位で名波浩前監督(現・日本代表コーチ)から霜田正浩監督に代わった松本山雅FCが昇格の有力候補と言えるが、鹿児島も浮き沈みのあるシーズンを送っており、現在は2位に上がってきたが、厳しい戦いが続いていきそうだ。
その鹿児島は元日本代表FWの中山雅史監督が率いるアスルクラロ沼津と今週末に対戦し、さらに首位の愛媛、3位の富山と続く、上位との直接対決3連戦が待っている。ようやく折り返しという時期ではあるが、この鹿児島の3試合はJ3の行方に大きく影響する“トリプル6ポイントゲームズ”になりそうだ。
改めて順位表を眺めると、現在15位の長野パルセイロまでが昇格圏の2位から勝ち点10ポイント以内におり、逆に入れ替え戦の可能性がある19位から見ていくと、現在11位のFC琉球までが入る。つまり琉球、12位のガイナーレ鳥取、13位のテゲバジャーロ宮崎、14位の岩手、15位の長野という5チームは現時点で上を見れば昇格、下を見れば降格がリアルな状況にあるということだ。
試合日程の関係から混戦となるJ3、ベテランが支えるチームが多数
J3がこれだけ混戦になりやすい要因としては基本1週間に1試合なので、あまりターンオーバーなどが必要なく、ある程度スタメンを固定させて、継続性のある戦い方や選手起用をしていきやすいことがある。J3は選手層もそうだが、コーチングスタッフの人員も限られるので、もし過密日程だと分析コーチやフィジカルコーチなどが回らなくなってしまうのだ。その分、ベンチに入れない選手が“余剰戦力”になってしまう問題はあるが、多くのJ3クラブにとって、現在のレギュレーションは助かる部分が大きいだろう。
戦力面で見ていくと、過去に二度のJ1を経験した松本山雅などはJ3の基準で見ると予算は大きく、元ヴィッセル神戸で東京五輪の代表候補だったDF藤谷壮、清水エスパルスから育成型期限付きで来たMF滝裕太など、上位のカテゴリーで経験のある選手も多い。それでも決して飛び抜けている訳ではなく、5位のFC今治であれば新潟などで活躍したMF三門雄大、愛媛なら森脇、矢田旭、富山なら高橋駿太といった経験豊富な実力者が中軸を担っているチームが非常に多い。
そうしたなかで、JFLから“参入組”の奈良クラブが現在4位と躍進しており、人件費が約1億円と伝えられるヴァンラーレ八戸が、百戦錬磨の石崎信弘監督の熱血指導で7位と健闘していることは見逃せない。奈良と同じ“参入組”のFC大阪も試合を重ねるごとにタフさが増しており、8位まで浮上してきた。志垣良監督がまとまりのあるチームを構築しており、守護神の永井建成を後ろ支えに粘り強い守備と島田拓海&古川大悟の2トップに効率よくつなげる攻撃で、リーグ15番目の16得点ながら2位の鹿児島から勝ち点5ポイント差に付けているというのは立派だ。
チームのポテンシャルと基準に見るなら、やはり首位の愛媛、2位の鹿児島、3位の富山、5位のFC今治に加えて現在9位に下がっている松本山雅、元日本代表コーチの上野優作監督が率いる10位のFC岐阜あたりが終盤まで昇格争いしていくと想定できるが、チームは戦いながら成長していくものであり、7月にJ2ライセンスの申請を行った4位の奈良クラブをはじめ沼津や八戸がこのまま上位に踏みとどまり、未曾有の大混戦になっていくかもしれない。
このままだと、昇格ラインも例年よりかなり下がってくると見られる。松本との“信州ダービー”の勝利を最後に7試合未勝利で15位まで落ちてしまった長野も、気鋭のシュタルフ悠紀リヒャルト監督がうまく軌道修正できれば、昇格圏までV字回復する可能性はある。現在は勝ち点10位で最下位に沈んでいる戸田和幸監督のSC相模原や現在19位のギラヴァンツ北九州などの巻き返しにも期待しながら後半戦を見ていきたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。