久保建英とは一体何者か? 「生意気な選手」と思われがちな21歳の内面、報道陣への言動は「嫌味ではない」

日本代表の久保建英【写真:Getty Images】
日本代表の久保建英【写真:Getty Images】

【識者コラム】日本代表での取材から浮かび上がる久保の正体にフォーカス

 スペインの名門FCバルセロナの下部組織で育った久保建英は、一体どんな内面の持ち主なのか。Jリーグやラ・リーガ、日本代表で実戦の場を踏んできただけあり、ファンにはお馴染みの存在になったものの、21歳の若き逸材の内面は「知る人ぞ知る」領域でもある。「FOOTBALL ZONE」では関係者や記者たちの証言から久保の人間性に焦点を当てた特集を展開。このコラムでは日本代表での取材から浮かび上がる久保の正体に迫る。

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 久保建英は「生意気な選手」と思われがちではないかと思う。言葉だけを拾っていけば、そうなってもおかしくない。例えば、ワールドカップ(W杯)の時や今年3月に日本代表へ招集された際の発言を「切り取る」とこうなる。

「僕は多分W杯の時とはもう別人」
「過去の話はもうしたくないので、次のコロンビア戦を見てもらえればいいかなと」
「もともと、W杯行く前からコンディションが僕は良かった」
「チームと代表でやっているポジションや役割が違ったってだけで、一旦代表の役割をやったあとにまたチームに戻ったら、それがより浮き彫りになったというか。自分の役割が違うので、やっぱり違った見え方しますし、そこに結果が付いてきたんで」
「存在感は当たり前だと思いますし、今の代表でコンディションだけで言ったら、多分トップに入る」
「口だけの選手にはなりたくないので、できればあんまり喋りたくないですね」
「今日は身体もキレていたので、このままやってようと思った矢先の交代だったので、そこはちょっと悔しかった」

 また報道陣が「明日は勝ち点3にフォーカスできる試合ということに関してどう感じますか」と尋ねた時、「勝ち点3にフォーカスできない選手は明日の試合に出るべきではないと思いますし、それは失礼だと思います」と、全く噛み合わない答えで跳ね除けたりもした。

 だが本当に嫌な人物かというと、細かく見ていけば実態は違いそうだ。

 例えば、練習が始まる前に、選手たちが遊びで4対2や5対2の「鳥カゴ」と呼ばれるボール回しをすると、久保は最初に「僕、中やります!」と追い回す「オニ」の役にすすんでなる。

 ミックスゾーンに現れる時、ほかの選手に「一緒に行こう」と言われ、報道陣が久保に集まると置き去りにされて、誘った選手はそそくさとゾーンをあとにするという「囮(おとり)」役に使われることもあった。久保は「やられた」という表情で苦笑いをしながらその後、きちんと話をしている。

 2022年カタールW杯で決勝トーナメント進出を決めたスペイン戦のあと、報道陣の前に興奮した面持ちで現れ、「あー、嬉しいですね、良かったです、良かったです、良かったです、良かったです」と感情を爆発させた。

 長友佑都が張り切って練習していることについて「あの人いつもあんな感じですけどね」と笑わせつつも、「ああやって盛り上げてくれる人がいることで、より質の高い練習ができている」と続けて、先輩へのリスペクトも忘れない。

 もちろん、そんな態度だけではない。報道陣にとって難しいのは、出場が見込まれる試合前日の取材だ。久保は早口で短く、ぶっきらぼうなコメントで、しかも上から目線と捉えられるような言葉のチョイスになったりもする。

結果で周りを黙らせた本田圭佑のような道を、久保にも歩んでほしい

 ただ、そんな時でも久保を見ていると気付くことがある。久保は質問が途切れそうになると、報道陣たちの目を見て「行っていいか」と訴えてくる。そして質問がないと分かると軽く会釈してその場を去る。質問を無視して行ってしまうような、横暴な態度ではない。

 報道する立場に立つと、理想は長友や川島永嗣だろう。試合前も終わったあとも、しっかりと自分の考えを話しつつ、結果も出していく。ミスをした時でも、堂々と、反省の言葉やその背景などを語ってくれる。長友に至っては「キャッチー」な言葉も使ってくるので、報道陣が群がり、雰囲気が盛り上がり、常に前向きな取材が行われている。

 久保はまだその域には達していないのだ。ベテラン勢と違ってこれから実績を積み上げなければいけない立場なので、いろいろ話をするよりも目の前の試合に集中したいと考えているのだろう。

 何よりまだ21歳。プレーヤーとしてはチームの中心になっていく年齢だが、早くから注目を集めていた選手ということで、報道陣はどうしてももう少し年齢が上の選手のようなコメントを求めてしまう。

 しかし21歳ならば、これから先に広がる未来に対して鼻息荒く、意気込み、前のめりに思えるくらいの発言でいいのではないだろうか。10代の頃は「久保クン」と「坊や」扱いのような言葉をかけられていた選手なら、余計に自分を認めさせたいという気持ちを持っていてもおかしくはない。

 そして決して驕り高ぶってはいない。カタールで「順調にここまで来ましたね」と話を聞いた時、こんな答えだったのだ。

「そんな順調じゃなかったと個人的には思っていますし、今回のW杯、ギリギリでなんとか滑り込んだっていう感覚が自分の中にはある」「チャンスを与えられるかもしれないという立ち位置に、今、自分がいることをしっかりともう1回噛みしめて、チャンスがあれば自分の今最大限のできるプレーをやりたい」

 そういういろいろなことを合わせて考えると、久保は決して嫌味な選手ではない。自分の目の前のことにひたすら集中しているだけだと思える。

 久保にとって一番の問題は、まだ日本代表として結果が出ていないことだ。苦しい時、ゴールを奪ってチームを助けてくれる存在になれば、もう誰も何も言わないだろう。最初は「ビッグマウス」だとされていた本田圭佑は、結果を出すことで周りをねじ伏せてきた。久保にも同じ道を歩んでほしいと願う。

 目標が高いので焦るのかもしれない。日本代表のピッチに立つと、まだ自分を証明しようとして前のめり過ぎるプレーになってしまう。スペインで活躍していることで自信を固めて、もっと堂々と日本代表を引っ張っていってほしいと思う。そうなるだけの人材であることは間違いない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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