追い込まれるバイエルン、止まらない負の連鎖 指揮官も怒り「遅すぎる」…絶対王者の姿はどこへ?【現地発コラム】

今シーズン無冠の危機もあるバイエルン・ミュンヘン【写真:ロイター】
今シーズン無冠の危機もあるバイエルン・ミュンヘン【写真:ロイター】

ナーゲルスマン監督を解任、トゥヘル新監督を招聘したバイエルンが苦戦中

 絶対王者の揺るぎない力はどこにいってしまったのだろう。

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 バイエルン・ミュンヘンが苦しんでいる。「目標にしている3つのタイトルが危うい」という理由でハサン・サリハミジッチSD(スポーツ・ディレクター)とオリバー・カーン代表取締役はユリアン・ナーゲルスマン監督を解任し、新監督としてトーマス・トゥヘルを迎え入れたわけだが、就任後5試合で2勝1分2敗と願ったような変化は生まれていない。

 就任直後のボルシア・ドルトムントとのブンデスリーガ頂上決戦(現地時間4月1日/4-2)はドルトムントのミスに助けられる形で勝つことができたものの、直後のフライブルクとのドイツカップ準々決勝(同4日/1-2)では先制ゴールを奪いながらの逆転負け。試合終了間際に相手シュートがブロックに入ったFWジャマル・ムシアラの手に当たってのハンドPKが決勝点になる不運はあったとはいえ、数多くあったビッグチャンスを軽率に逃して試合を決定づけることができなかったのだから、文句の言いようもない。

 カップ戦敗退から4日後、ブンデスリーガ第27節で再びフライブルクと対戦。オランダ代表DFマタイス・デ・リフトの見事なミドルシュートによる1点を守り切り、1-0のかなりきわどい勝利だった。

 試合内容以上にメディアを騒がせたのは、試合終了直後のドイツ代表MFヨシュア・キミッヒの振る舞いだ。ゴール裏のフライブルクファンめがけてガッツポーズを連発。この行為にフライブルクの複数選手が抗議に走り、ピッチ上には不穏な空気が流れていた。

キミッヒの挑発行為で波紋、バイエルン選手の精神状態を思いやるフライブルク監督

 キミッヒは試合後にミックスゾーンで「試合前にオーロラビジョンでドイツカップでの映像が何度も流されていたのを挑発と感じたんだ」と、その理由と心情を吐露。理解できない話ではない。

 一方のフライブルクにとって、カップ戦でのバイエルン戦勝利はミュンヘンでの公式戦初白星で、24度目にしてようやく掴んだ勝利だった。

 フライブルクのクリスティアン・シュトライヒ監督は「すべてがかみ合わなければバイエルンにアウェーでは勝利はできない。幸運があったのは確かだ。だが我々はこの瞬間をずっと長い間待ち望み続けてきたんだ」とかみ締めるようにドイツカップ後の記者会見で語っていたが、その思いはファンも関係者も同じだ。

 フライブルクは常にタイトル争いをするような立ち位置のクラブではない。勝ってあたり前のクラブではない。カップ戦準決勝進出だって日常茶飯事なことではない。だからこそ、世紀の大勝利をホームでファンともう一度分かち合いたいというのは、自然なことではないだろうか。

 それを受け入れて、称えることができないほど、バイエルン選手は追い込まれているのかもしれない。シュトライヒ監督が「両肩にのしかかるプレッシャーが大きければ、そうした反応もあるのだろう」と、バイエルン選手の精神的状態を思いやるほどだ。

好調のCLでもシティに惨敗【写真:ロイター】
好調のCLでもシティに惨敗【写真:ロイター】

CLで8戦8勝だったバイエルン、準々決勝第1戦でシティに予想外の0-3完敗

 選手も、監督も、首脳陣も、どこかで気持ちが解放される瞬間がくることを待ち望んでいるだろうし、その点でマンチェスター・シティとのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)がそのきっかけになるのではという期待をしていたのではないだろうか。

 今季CLでバイエルンは8戦8勝。インテルにも、FCバルセロナにも、パリ・サンジェルマン(PSG)にも勝利してきた。リーグ戦で調子が悪くても、CLになったらギアが入れ替わり、ピッチ上で攻守に躍動感のあるプレーを見せていた。トゥヘル監督もその効果について、リーグのフライブルク戦後に口にしていた。

「今日はクオリティーに加え、情熱やメンタリティーをもたらした。タフに戦ってくれた。今日の試合でもチャンスをたくさん逃したが、それを現実として受け止めてて取り組み続けるだけ。ネガティブなことを考えるのではなく、受け止めてポジティブにやり抜いていく。無失点で勝ったことを嬉しく思う。(きっかけがあれば)変化はあっという間に起こるだろう。サッカーではすべてがすごいスピードで変わることがある。リーグとCLは状況が違う。シーズンラストに向けてカウントダウンが始まっている」

 だが、思い描いていた変化はまだ生まれていない。シティとのCL準々決勝第1戦は堅守を支えていたフランス代表DFダヨ・ウパメカノが不安定なプレーに終始。失点に絡んでしまった。アウェーだから負けることはあっても、0-3での完敗はさすがに予想していなかったことだろう。

トゥヘル監督も苦言「怒りをプレーに還元して爆発する準備ができていると思ったが…」

 悪い流れは止まらない。続くリーグ戦のホッフェンハイム戦でもピリッとしないまま1-1の引き分け止まり。試合後、さすがにトゥヘル監督も怒りのコメントを残している。

「怒りをプレーに還元して爆発する準備ができているかと思っていた。だがそうではなかった。悪かった。スピードが遅すぎるし、スピードの変化もないし、ミスが多すぎる」

 現地時間19日のCL準々決勝第2戦ではホームにシティを迎えるが、逆転勝利を信じるための確かなものがないのが苦しい。

「燃える思いと自信を取り戻すチャンスだったのだが。水曜日の試合(CLシティ戦)はただでさえ厳しい状況だ。自分たちとファンにポジティブな雰囲気をもたらすチャンスを逃した」(トゥヘル監督)

 3冠どころか、無冠で終わる危険性があるほど追い込まれているバイエルン。だが、サッカーは何が起こるか分からない。思いもよらない試合展開になることだってあり得るだろう。失うものは何もないのだ。ホーム超満員の大歓声をバックに頭と心を解放し、ピッチでそれぞれのベストプレーを引き出して、自分たちもファンも、腹の底から納得できる試合をしてほしいものだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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