久保建英を生かすための日本代表ベストシステムは? 求められる周囲への“納得感”
【識者コラム】久保を生かすチームの組み合せは一考の余地あり
コロンビア戦前、久保建英は自信満々だった。
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「僕はたぶんワールドカップ(W杯)の時とはもう別人」
「(自分の)存在感は当たり前だと思いますし、たぶん今のコンディションだけで言ったら(チームの中で)トップに入る」
だが、全体練習に参加できなかったことに不安を持っていた森保一監督は3月28日に行われたコロンビア戦の後半14分から久保を起用する。ピッチに飛び出していった久保は、たしかにチームを活性化させた。ドリブルで力強くコロンビア陣内に進むと、味方をパスで動かしチャンスを作る。
ただし、周りとの連係は探りながらにとどまり、ゴールを生むまでにはいかなかった。それでも日本が放った5本のシュートのうち、1本は久保だった。
日本代表が3月に戦ったウルグアイ戦(1-1)、コロンビア戦(1-2)で最も注目を集めたのは三笘薫だった。三笘がボールを持つたびに大きな歓声が上がり、サッカーファンからの期待の高さを伺わせた。
その次は久保だったのではないだろうか。ウルグアイ戦はコロナ2019の陰性判定が出ず欠場してしまったが、W杯後に今後の一層の活躍を予感させるプレーぶりを見せているからだ。
W杯後の公式戦11試合で3ゴール。公式戦3試合連続のMVPにも選ばれた。活躍の理由を久保はこう語る。
「単純にチームと代表でやってるポジションや役割が違ったというだけで、一旦代表の役割をやったあとにチームに戻ったら、それがより浮き彫りになった。自分の役割が違うので、違った見え方がしますし、そこに結果がついてきた」
日本代表でも久保に求められるのは、当然クラブと同じような活躍を見せてくれることだろう。コロンビア戦では途中出場していくつものアイデアを見せてくれた。
三笘がスペシャリストとして周囲からの生かし方がハッキリしている。それに対して、久保はまだチームにしっかり「ハマって」いない。
もちろん日本代表にはその「戦い方」があり、そこに適用できないと、どれだけリーグで活躍していても招集されることはない。しかし一方で、代表チームは集合してから試合までの時間が短く、細かな戦術を詰める時間は少ない。
となると、それぞれの選手がその時点で出している自分の良さを組み合わせることでチームは強くなるのではないだろうか。その意味で「久保を生かす」チームの組み合わせというのも一考の余地がある。
久保自身の“理想”はトップ下
では、久保は自分の良さをどこだと感じているか。
「僕の『トップ下』はボール持って長い距離で運んでいける。そこから散らしたり最後どうするかは自分次第ですが、間でボールを受けてもっと運んでいく」
「(ウルグアイ戦は)中央突破があまりなかった。4-2-3-1の強みはトップ下に1人ある程度自由を与えられた選手がいること。その選手がオン・ザ・ボールで違いを見せて、1人、2人剥がしてくのが、僕の理想としてる選手像でもある」
ポジションは中央に置いたほうがいいだろう。サイドに押し込まれると、身体をぶつけられてボールを奪われることになる。堂安律のように押されても耐えるタイプではない。だが、中央ならば視野の広さを生かして上手く逃げられる。
現在、森保監督が使うのは4-2-3-1、4-3-3(4-1-4-1)、3-5-2(5-3-2)、そしてコロンビア戦で見せた4-4-2。この中でどのような組み合わせにすれば久保が生きるのか。
基本は4-2-3-1のトップ下になる。理想としてはボランチの1人に鎌田大地を置いて試合全体をコントロールさせながら、久保が攻撃の最後の仕上げに絡んでくるという形だろう。ボランチが2人いることで、久保の守備への負担はほかに比べると減るはずだ。
4-1-4-1ならば、インサイドハーフで堂安と並べるという形が考えられる。東京五輪でも組んでいたが、2人の呼吸は合っていた。ただし、そうなると2人は攻撃に能力値が大きく振り分けられているため、中盤の守備が不安になる。相手が深く引いて出てこず、細かい局面を突破しなければいけない時のオプションになるのではないか。
3-5-2が5-3-2になってしまうくらい押し込まれてしまう相手と対戦する時は、サイドに槍のタイプを1人置き、中央にゴールゲッター、その近くに久保を置いてフィニッシュにひと工夫という役割ならできそうだ。だが、5バックになるほど押し込まれるとしたら、2トップだけで点を取ってこなければいけないくらいの状況になる。となると、久保の出番は難しい。
3-5-2を3-5-2のまま使える、つまり両サイドを押し込める相手だったら、久保は2トップの一角でいいのではないか。守備の負担を大きく減らすことで、より一層よさが生きるはずだ。
4-4-2ならばダイヤモンド型の中盤の一番前、あるいは2トップの一角ということになるだろう。森保監督はコロンビア戦で久保をダイヤモンド型の中盤の前に置き、攻撃の起点にしようと考えたはずだ。コロンビア戦では右の堂安、左の伊東純也を外に張らせて、久保のためのスペースを広く作った。
最適なシステムはやはり4-2-3-1?
だが、森保監督がこの形を指示したのは、なんとしても1点を奪いたいというシチュエーションだったから。守備を考えた時には不安が残る。
本来ならオプションとしての3-5-2で点を奪うという方向でチームは進んできたはずだが、森保監督はW杯を経てさらなる攻撃の形として4-4-2を模索しているようだ。そうなると、久保の攻撃の良さは生きるかもしれないが、日本代表としてはあまり見たくない形かもしれない。
と、ここまで久保を生かす方法を考えてきたが、やはり最適解は4-2-3-1ということになる。ただし、久保にも解決しなければいけない問題点があるのは間違いない。
久保は自分の課題として、「フィニッシュに関して落ち着きが足りないとは思います」と語っている。また、現在のクイックネスを生かした技巧的なシュートに加えて、パンチ力のある一発もほしいはずだ。
そして、この久保を生かすシステムを周りに納得させることが必要だろう。今年6月で22歳になる久保は、ここまで日本代表戦22試合に出場して1得点。日本代表で絶対的な存在になれているかというとそうではない。香川真司は22歳になる年で日本代表戦29試合9得点だったのだ。
コロンビア戦では後半43分のコーナーキックがそのままゴールラインを割ってしまった。タイムアップ寸前に左サイドを抜け出し、得意の左足でクロスを送ったが、味方に合わなかった。どちらか1つだけでもゴールに結びつけば、また違ってきたはずだ。
もちろん今年、ポテンシャルの高いことは間違いない久保が大きく開花することも十分考えられる。まずは6月、久保が万全のコンディションで日本代表に選ばれ、どのポジションでも結果を出し、「久保を生かすことが最優先」と思わせることが大切だろう。
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。