佐野日大が見せた“根気”サッカー V候補をねじ伏せた、劣勢でも「プランどおり」の闘いに滲んだ充実ぶり

佐野日大が履正社に勝利し、準々決勝へ【写真:徳原隆元】
佐野日大が履正社に勝利し、準々決勝へ【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】優勝候補の履正社をPK戦で撃破、ピッチ上で見せた戦いぶりに注目

 駒沢陸上競技場のピッチで佐野日大(栃木)が見せた集中力はまさに圧巻だった。

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 第101回高校サッカー選手権大会3回戦の対履正社(大阪)戦。佐野日大は優勝候補と目されていた履正社に対して、劣勢の試合展開を強いられたが、80分を1-1の引き分けで凌ぎ切り、PK戦へと持ち込み見事に勝利。ベスト8へ進出を果たした。

 佐野日大はゴール前に5バックと中盤に4人の選手を並べる二段構えの分厚い守備網を形成し履正社を迎え撃つ。履正社の攻撃をタイトな寄せで封じ、たとえシュートを打たれても素早く詰め寄って壁となりゴールの枠へと飛ばさせない。

 相手の一連の攻撃を退けると『よし、次』といった感じで、守備網を整えては履正社の次の攻撃に備える。佐野日大はこのタフでなにより根気を必要とするチームプレーを積み上げていくようなイメージのサッカーを展開していく。

 実際、このタフな戦いへと持ち込んだ佐野日大は、圧倒的にボールをキープされる状況でもチームのリズムは健在だった。プロ内定が決まっているMF名願斗哉とDF西坂斗和が形成する履正社自慢の左サイドにも決定的な仕事を許さない。自分たちが思い描いたサッカーを表現することができていたからか、前半が終了しロッカールームへと引き返す選手たちを見れば、互いに大きな声を掛け合っていた。その姿は気合十分で自信に満ちていた。

 ただ、履正社が集中力を欠いていたかというとまったくそうではなかった。各選手が高い個人技を持って、佐野日大の鉄壁の守備網を崩そうと、早いボール回しを武器に揺さぶりをかけ果敢にプレーをしていた。しかし、佐野日大は履正社を上回る高い集中力を発揮し続けた。

 そうして履正社の攻撃に耐え、ワンチャンスに賭けるサッカーが実を結んだのは後半2分。DF青木柾のゴールで先制点を奪う。しかし、リードしたものの佐野日大は、前半以上に後半は自陣での守備に奔走することになる。

 実際、後半は履正社のゴール裏に位置しカメラを構えていたのだが、佐野日大はハーフェーラインを越えて攻め込む場面はほとんど見られなかった。それほど猛攻に晒され、守備に時間を費やしていたことになる。そしてついに後半20分、エース・名願に同点弾を決められてしまう。

 だが、それでも佐野日大は高い集中力を持ってなんとかそれ以上の失点を許さない。そして、プランどおりのサッカーを見せることができたという達成感が勢いとなり、PK戦で勝利したのだった。

 見事に勝利した佐野日大だったが、戦っていたのはなにもピッチに立つ選手ばかりではなかった。ピッチ外の人々が勝利へと向かう雰囲気を作っていたことも、強豪・履正社を破った一因として見逃せない。

 スタンドの応援団は好プレーを見せる選手たちへ声援を送り、スティックバルーンを叩いては大いに盛り立てた。なによりベンチ外の選手たちが絶え間なくピッチで戦う仲間へと声援を送り続けていた。ゴール裏から見ていて彼らの熱い言葉がピッチの選手たちの励みになったことは間違いない。

 高い集中力を武器に佐野日大は試合内容ではほとんどの時間で劣勢を強いられたものの、勝負には勝つことになる。現実を直視し劣勢が予想されるなかでどうやって勝利するかを熟考し、そのプレーをピッチで確実に遂行して勝利へとつなげたのだ。

 まさにチーム力が上のチームに対して勝利するお手本のようなサッカーだった。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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