悪童からの変貌 イングランドの新主将ルーニーが見せたキャプテンシー

代表100キャップを刻んだ男の今

 その男は、誇らしげな笑顔でスタジアムを見渡していた。試合直前、彼は自身の子供たちに囲まれながら、代表100キャップという偉業の証しをピッチで受け取った。彼の名はウェイン・ルーニー。現在イングランド代表で、その腕にキャプテンマークを巻く人物だ。
 イングランドは、15日に行われたEURO予選第4節スロベニア戦で3-1と逆転勝利を収めた。
 試合は開始からスピード感に欠ける展開が続いた。そのため、満員で埋まったはずのウェンブリースタジアムは、選手の叫び声が響き渡るほどの静寂に包まれていた。さらに、後半頭にはオウンゴールで先制点まで許してしまう。
 しかし、背番号「10」を背負うキャプテンは落ち着いていた。ゴールという結果でチームの尻をたたいたのである。失点直後に高い位置でボールを持ったルーニーは、圧巻のスピードとテクニックでボックス内へと侵入。相手DFは耐え切れずに足を掛けてしまい、PKを得ることに成功した。エースは、自らの足で同点弾を沈めた。
 主将は喜びの輪が解かれると、オウンゴールをしてしまったMFジョーダン・ヘンダーソンへと駆け寄り、頭にそっと手を置いた。そして、反撃ののろしを上げるためにチームメートを奮い立たせた。
 イングランドは、そこからたった13分間の間に逆転、ダメ押し点を挙げ、勝利をつかみ取った。
 試合後のルーニーも自らを誇示するのではなく、2得点を挙げたFWダニー・ウェルベックへの賛辞を惜しまなかった。
「彼は改めて誰かに対して、持っているモノを証明する必要はない。以前からトップレベルにあることを証明してきた。試合をこなすごとにパフォーマンスも向上してきている。アーセナルでも代表でも得点を積み重ねている彼は、すべての信頼に値するはずだ」
 かつては、悪童としてピッチ内外での振る舞いが問題視された。だが、レッド・デビルズのエースは、いまや予選4連勝を果たした母国の快進撃を支える、立派なキャプテンへと変貌を遂げたのだ。
「ウェインは自然とリーダーになる存在だ。自国を代表することに情熱を持っており、責任に惑わされてしまうこともない。試合前のロッカールームでは、彼が最も声を出している選手だった。彼は、常にわれわれのリーダーだったよ」
 代表を引退した前主将のMFスティーブン・ジェラードもそう語るように、ゴールを奪うだけの若きストライカーは、もうそこにはいない。選手入場の際、一番手にピッチの芝を踏む彼は、スリー・ライオンズの誇りを胸に勝利へと突き進む。真のキャプテンとなった彼は、これからも走り続ける。腕に巻いたアームバンドを強く握りしめて。
【了】
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

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