レアルのCL優勝は守護神の大活躍があってこそ “GK力”が勝負を決めた典型的なファイナル
【識者コラム】リバプールの好機を防ぎ、レアル優勝のヒーローとなったGKクルトワ
リバプールの放った枠内シュート9本をすべて防ぎ、GKティボー・クルトワはレアル・マドリードの14回目のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝のヒーローとなった。
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レアルは唯一の枠内シュートだったヴィニシウス・ジュニオールの1点を守り切って1-0で勝利している。一方、リバプールのGKアリソンのセーブはゼロ。これだけ比べるとGKの差のようだが、レアルはシュート数自体が少なくアリソンのせいというわけではない。
スタッツには表れない部分でレアルの勝利にはある程度の必然性があった。少なくとも、決勝に勝ち上がる過程ほど神がかってはいない。
序盤はリバプールのハイプレスによって自陣から出られない流れになっていたが、ボールを確保できたときは焦らずに攻め込んでいる。リバプールもそれ以上、攻め込みとハイプレスのリズムに固執することなく、得意のロングパスをトリガーにした波状攻撃も見られなかった。むしろ慎重なビルアップとミドルゾーンに構える守備は、いつものリバプールらしさが欠けていて、そうさせたのはレアルのクオリティーだったとも言える。
後半は展開がいきなりオープンになり、攻め合いの様相に。そうなるとレアルの個々のテクニックの巧さが際立つようになった。ルカ・モドリッチ、トニ・クロース、カゼミーロのMFトリオは相変わらずの安定感を示し、おそらくバロンドールを獲るだろうカリム・ベンゼマや守備陣の頑張りも素晴らしかった。決勝でのレアルの強さは伝統で、勝率は8割を超えている。この試合でも序盤をしのいで、リバプールの勢いが落ちたところで勝負という試合巧者ぶりが目立っていた。
リバプールは今季のCLで最強のチームだったかもしれないが、決勝に関してはレアルの落ち着きと個々のクオリティーがリバプールを慎重にさせていたのだと思う。
そして後半14分、フェデリコ・バルベルデの低いクロスをファーサイドでヴィニシウスが合わせてレアルが先制する。そこからはリバプールが前半を思い出しように攻勢をかけるが、決定的なシュートをクルトワが防ぎまくった。
シュート数はリバプール23本、レアル3本だが、そこまで内容に差があったわけではない。ただ、クルトワの大活躍で優勝できたのも間違いない。長い手足を自在に広げ、あるいは折り畳み、ゴールの前で壁を作っていた。
CLファイナルともなれば、差があるとしてもごく僅差にすぎない。そうなるとGKの活躍が勝敗を左右することも多くなる。レアルはワンチャンスを決めたが、クルトワは3、4点を防いでいる。チームの出来も良かったけれども、GK個人の力で勝負をつけた典型的なファイナルだろう。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。