遠藤航はなぜ“デュエル”で勝てるのか ブンデスリーガで2年連続偉業のワケ、ドイツで際立つ“巧さ”とは?

インサイドハーフでのプレーでも、リーグ最多のデュエル勝利数は特筆に値

 つまり、インサイドハーフでプレーすることは、毎回自分にとってベストのタイミングでデュエルへ行けるわけではないのだ。不利な体勢や状況でもプレスにいかなければならないことが多くなる。そうすることでアンカーや守備ラインが大勢を崩さないのを助け、味方がスペースでボールを受ける時間を作ることができるわけだが、個人データで見た時にはデュエルで勝てない局面も増えるということになる。

 そうした状況下にあってなお、リーグ最多のデュエル勝利数を勝ち取ったというのは特筆すべきことでしかない。「デュエル勝率というデータで見ると、遠藤は上位には入ってこない」とか、「デュエルによる負け数もかなり多い」という指摘をするファンや識者もちらほらいるが、重箱の隅を楊枝でほじくるようなことまでして、なり得たことを正当に評価しないのはいかがなものか。

 インサイドハーフでのプレーについて、起用当初は戸惑いも見られていた。いつ、どこで、どのタイミングで当たるべきか、どこまで深追いしていいのか、かい潜られた時はどうしたらいいのか。ちょっとした迷いは時間にしたらほんの瞬間かもしれないが、選手の足を止めたり、鈍らせたりしてしまう。でも試合中ではほんの1秒足を止めたことが致命的なピンチにつながることもあるのだ。

 そんな遠藤のプレーが変わってくる。劇的な逆転勝利を挙げた第25節のボルシアMG戦(3-2)は戦慄のパフォーマンスを見せた。そして最終節ケルン戦(2-1)でも遠藤はピッチ上で鬼神のごときプレーでチームを引っ張っていた。

 相手CBがボールを持つと鋭い出足で前に出てプレスをかける。GKまで下げられたらそのままプレス。パスを回されると遠藤はすぐに次のポジションに移動していく。距離を詰めて奪える局面では身体をうまく入れてボールを収める。

 悪い時のシュツットガルトは前からプレスに行っているのに、後ろが前に出るのを怖がって中盤にぽっかりスペースが開くことが少なからずあった。だが、この日は違う。選手みんなが勇敢にチャレンジし続けていた。

 中盤で守備や攻撃をするだけではなく、遠藤はペナルティーエリア内まで何度も駆け出していくし、そこでのシュートやパス頻度も増えている。それこそデュエルが行われたヒートマップがあったら、その範囲の広さに驚かされるはずだ。中盤センターだけが主戦場ではない。ハーフスペースも、バイタルエリアも、ペナルティーエリア内もすべて遠藤のテリトリーなのだから。

 今季の遠藤は、チームでのタスクが変わり自分の間合いだけでボール奪取にいけないことが増えながらも、守備だけではなく攻撃でもより力を発揮することが求められた。さらに言うと、チームが苦しい状況で思うような試合展開ができないこともあった。

 昨夏の東京五輪からの過密日程でコンディション調整の難しさが続きながらも、遠藤は文句を何一つ言わず現実と向き合い、自分のプレーをさらに成長させ、チームを見事1部残留へと導いたのだ。2年連続デュエルキングに輝いた遠藤の功績に、大きな拍手を送りたいではないか。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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