38歳長谷部誠、なぜ異例の5年契約? 欧州トップリーグで日本人指導者誕生への期待感

近い将来、長谷部コーチあるいは長谷部監督を取材する日が来るのかもしれない

 この第一関門を潜り抜けた精鋭からさらに選考された25人がプロコーチライセンス講習会に参加できる。それだけではなく、昨年発表された指導者育成システム改革によってさらに難易度が上がったのだ。25人だった参加者は今年16人へ。ドイツサッカー協会の担当者によると12人にまで縮小される予定もあるという。

 これに関しては「プロコーチライセンスを所得し、さらにプロクラブのトップチームで監督としてポストをもらえ、そこから成長していけるだけのポテンシャルがある指導者は限られている。これはこれまでの歴史が示している」というのが理由だそうだ。

 こうしたS級相当ライセンスの毎年の参加人数に関してはUEFAからの指導もあったことでドイツだけではなく、欧州各国が減少傾向にある。これまで以上にプロで監督をやるための条件を整えることは、どの国でも難しくなってきていると言えるのだ。

 逆に言うと、今回の長谷部のようなケースでもない限り、こうした狭き門を突破できる可能性を見出すのは無理なのではないかとさえ思う。それだけに期待が高まるのだ。長谷部なら、ドイツでS級ライセンスを獲得し、プロクラブの指導者としてのキャリアを歩むこともできるのではないかと。

 ブンデスリーガの一流指導者が口を揃えて「本物のプロ選手」「誰にとってもお手本」「指導者としてもやっていける」という言葉を残しているから、信じたくなる。そして長谷部が切り開いた道の先に、「日本人指導者という選択肢もありだな」という流れもくるのではないかという夢も見たくなる。

 ひょっとしたら近い将来、長谷部コーチ、あるいは監督の試合後談話を目的に取材へ行く日が来るのかもしれない。それはとてもワクワクする話ではないか。

 ただ、それは遠くはないかもしれないが、まだまだ先の話。本人の現役への意欲にはいまだ衰えなどないのだから。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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