どん底でもパニックにならないアイデンティティー 名門バルサが推し進める再建の道
【識者コラム】強いバルサの復活までファンは待てるか
クラブのレジェンド、シャビが監督に就任したFCバルセロナは絶賛、原点回帰中である。いや、絶賛なのかどうかは分からない。リーガでの順位は5位だし、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)は敗退し、スーペル・コパ・デ・エスパーニャも惜しいところだったが、レアル・マドリーに敗れて決勝に進めなかった。
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正直、今のバルサに強さを感じないのだ。FWリオネル・メッシ(現パリ・サンジェルマン)がいなくなり、チームは落ちるところまで落ちた感があるなか、再建を目指して立ち上がったシャビ監督には敬意を表したいし、伝統のスタイルを再構築しようとしていることも理解できる。ただ、強くないバルサは本当に久々のことなので、ファンがどれだけ待ってくれるのかという心配はある。
ヨハン・クライフの時は2シーズン待ってくれた。クライフが監督に就任した時のバルサは現在よりもさらに危機的な状態で、選手たちが記者会見を開いて会長や役員の辞任を要求する「エスペリアの反乱」が起きていた。これはまずいと思ったホセ・ルイス・ヌニェス会長が、レジェンドであるクライフの招聘でなんとか収めようとしたわけだ。
ただ、最初の2シーズンは優勝できず、クライフ監督の導入したプレースタイルも賛否両論だった。最初のシーズンにUEFAカップウィナーズカップを獲ったので無冠ではなかったが、何より戦術が理解されていなかった。今でこそバルサ・スタイルの祖と崇められているが、あまりに無防備に見える守備は「ヒッチコック・ディフェンス」と揶揄されていたものだ。ちなみに有名な映画監督の名前がついているのは、それだけスリルとサスペンスがいっぱいの不安定な守備という意味である。
しかし、3年目にリーグ優勝を成し遂げると、その後は周知のとおり「ドリームチーム」と呼ばれる快進撃となった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。