果敢な挑戦を続ける札幌は貴重な“Jリーグの曲者” 活気に満ちた危険なチームだ
【識者コラム】札幌の志は高い。しかし常に先行逃げ切りのシナリオを貫徹する必要がある
札幌は成績が振るわない時でも、活気に満ちた危険なチームだ。特に上位陣にとっては嫌な相手で、昨年も川崎フロンターレの連勝を「12」で止めている。J1第32節では首位の川崎を追う横浜F・マリノスとの対戦となったが、前半は前線からの厳しいプレッシングで、リーグでナンバーワンのポゼッションを誇る相手に効果的なビルドアップを許さず完全に主導権を握った。
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開始6分には、ルーカス・フェルナンデスを故障で欠くアクシデントに見舞われるが、攻勢を続けた流れのまま24分に菅大輝のスーパーショットで先制。以後も度重なる決定機を連ね、チームを率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督も「75分までは我々が支配し、3~5点のリードをしてもおかしくはなかった」と振り返っている。2点目が取れなかったのを悔やむというより、もっと大差で圧倒できる感触を得ていたことになる。先制ゴールを決めた菅も「前半から守備もはまっていたし、今日みたいな試合を続けていれば負ける相手はいない」と強気のコメントを残していた。
実際にポゼッションでは、リーグトップの横浜に対し札幌も3位。大筋で志向は一致しており、どちらもテンポが速く無駄な休息のない攻防を続けるので、Jリーグでは滅多に見られない痛快な試合となった。結局追い込まれた横浜FMが、後半途中からCBでスタートした岩田智輝をワンアンカーに、前線も2トップにするギャンブルに出て土壇場で逆転に成功。逆に序盤から飛ばしまくった札幌は、終盤にかけてドウグラス・オリヴェイラ、ジェイ、ミラン・トゥチッチら決定力を見込めるアタッカーを送り込んだが、その分プレッシングが機能しなくなり失速につながった。
スタミナ、スピード、強度が求められるマンマークのプレッシングを続ける札幌は、常に先行逃げ切りのシナリオを貫徹する必要がある。どの局面も1対1なので、少しでも相手に余裕を与えれば、個の能力で剥がされ隙が生まれる。だからこそ敗軍の将としてペトロヴィッチ監督も「敗因は5点を取れるだけの決定機を決めきれなかったこと」だと語り、さらに続けた。
「世界を見てもアップテンポでアグレッシブな試合ができている。札幌の若い選手たちにも、同じようなチャレンジが必要だ」
志は高い。しかし指揮官自身が「交代選手の質の差が出た」と話したように、スタメン11人で90分間強度を保ち続けるのも、助っ人勢を中心とする交代選手たちに同じようなプレッシングを求めるのも難しい。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。