“緊急事態”の横浜FMが引き寄せた「運」 痛快な逆転勝利…優勝争う川崎に重圧与えたか

広島のシュートはクロスバーに弾き返されるなどツキに見放された

 もちろん、FKを獲得した前田の素晴らしい反転などゴールを呼び込む要因はあった。しかし広島の城福監督にすれば「崩された感がなく、気持ちの整理がつき難い」もので、心理的には大きなダメージを与えたに違いない。一方、対照的に交代出場選手が絡んでゴールに迫った広島は、青山敏弘のシュートがクロスバーに弾き返されるなどツキに見放された。

 確かに終わってみれば、横浜FMが60%ボールを支配し、広島の倍近いパスを繋いだ試合なので順当勝ちとも言える。しかし広島側に、せっかく抜擢して好調な滑り出しを見せた土肥の故障離脱や決定機の不運なども重なったことを思えば、決して楽に手に入れた勝ち点3ではなかった。

 横浜FMはGKとCB以外は、すべてのポジションで同等に近い力の選手を2人ずつ揃えている。多くの試合で後半途中から前線のメンバーを入れ替えていることも、コンディション維持には大きな利点になっている。反面CBが2人とも欠けた広島戦は緊急事態だったが、岩田智輝と實藤のコンビで「新しい2人が入っても変わらないパフォーマンスができて満足している」とマスカット監督も語った。消化試合数では一歩進んだが、再び川崎の背中につけて、ACLとの併用となる王者に少なからず重圧を与えたはずである。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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