激震フランクフルトはどこへ向かう? 監督と首脳陣退任…来季問われる土台作りの真価

クラブフィロソフィーを“デジタル化”、体制一新の来季に真価が問われる

 ボビッチのほかにスポーツディレクター(SD)のブルーノ・ヒュブナー、そしてアディ・ヒュッター監督が柱となり、プロジェクトは進められていった。クラブ内スタッフで知識を獲得し、明確な役割を作り上げ、クラブが持つ競争力を高めることが重要だった。

「ピッチ内外における個々のパフォーマンスを向上させ、そこで得た知識を共有できるようになるためにデジタル化を進めてきた。トップチームの監督やアシスタントコーチ、そしてアカデミーをつなぎ合わせることができるし、さらなる成長を目指すことができる。そうやってネットワークとコミュニケーションをデジタル化することで、自分たちの仕事は非常に促進されてきた。テクノロジーで解決策を探すことが答えではなく、テクノロジーの導入がコミュニケーションを妨げることになってはいけない。一番大事なのはノウハウと結果を将来のために、クラブに持続的に残るということなんだ」(ボビッチ)

 16年にソフトウェア会社のSAPとパートナー契約を結び、まずはプロチームで導入。18年にはそのノウハウを基に、育成アカデミーでも完全デジタル化を導入。例えば選手はスマホやタブレットなどの端末で、すぐに映像を呼び出して確認することができる。個々の選手ごとにカテゴライズされた改善点や課題が、いつでもすぐにチェックできるというものだ。

「特に他のブンデスリーガクラブにないことは、クラブフィロソフィーを網羅することができた点だ。すべてのクラブスタッフ、プロチームだけではなく、育成アカデミーの監督、コーチ、選手、スタッフ全員が見ることができる。個々の選手データ、戦術データ、トレーニングコンセプト。すべてが見られる。そして年配の人でもシンプルにすぐ活用できるような工夫もされている。

 フランクフルトとはどういうクラブか? フランクフルトはどこを目指すのか? どんなサッカーを志向するのか?

 首脳陣はこうしたソリューションを作り上げたことを誇りに思う。ここから将来に向けて変化も生じるが、そのための大事なベースを作り上げることができたというのは本当に重要だと思う」(ボビッチ)

 自分たちの仕事をできる限りデジタル化し、数値化し、作業を最適化できるようになった。問題があったら早めに見つけ出し、解決へ導くことができるという。

 サッカー界の変化は速い。ボビッチはヘルタ・ベルリンへ移り、ヒュブナーは引退し、ヒュッターはボルシアMGの監督就任が発表された。それでもフランクフルトには彼らが作り上げたベースが残る。新しい人事編成となる来季以降、フランクフルトがどのようにクラブとして成長していくのか楽しみな限りだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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