メッシのバルサ退団騒動と47年前のクライフ 天才2人に共通、“心を失った契約”の空虚さ

契約解除金は885億円も…メッシがバルサに留まることはないだろう

 アヤックスは8億円という当時では法外な移籍金を、バルセロナにふっかけた。強気な交渉の裏には、アヤックスとレアル・マドリードが手を結んでいたという噂もある。すでにゲルト・ミュラーの獲得に失敗していて焦るバルサ、引退覚悟のクライフ、ギュンター・ネッツァーに続いてクライフ獲得を目論むレアル、どうせ移籍されるならできるだけ移籍金を取ってやろうと必死のアヤックス……。様々な思惑が絡み合った交渉は難航したが、最後はクライフが意志を通してバルサ移籍で決着。移籍金は当時世界最高額の約5億円だった。

 2020年、リオネル・メッシの契約解除金は約885億円だそうだ。

 47年前にアヤックスが“お断り価格”としてバルサにふっかけた金額の百倍以上になっている。メッシは法廷闘争も辞さないという。すんなり移籍が認められるかどうかは分からないが、メッシがバルサに留まることはないだろう。

 もう心がそこにない選手を引き留めるのは、契約があっても結局のところ無理なのだ。クライフはおそらく、その最初の例だった。アムステルダムで「初めてベビーカーを押した夫」と言われたクライフは、移籍騒動でも世間のはるか先を行っていたわけだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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