こんなに奮闘するネイマールは見たことがない 傑出した「個」の力で密着マークを“無力化”
【識者コラム】PSGの逆転勝利を導いたネイマール、1人でアタランタの2人を翻弄
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、パリ・サンジェルマン(PSG)とアタランタの試合は見応えがあった。アタランタが先制したが、後半にPSGがひっくり返した。キリアン・ムバッペの投入が試合の流れを変えていたが、MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)を選ぶなら文句なしでネイマールだ。
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アタランタと、“アタランタ11人分の年俸を稼ぐ男”ネイマールの対決だった。
ムバッペは負傷から復帰したばかりでベンチスタート、アンヘル・ディ・マリアもいない。マウロ・イカルディはいたが、彼はゴール前の選手なので崩しはネイマールが一手に引き受けている状態。ネイマールのポジションはセンターフォワードだった。
といっても、アタランタが3バックなので、イカルディ、ネイマール、パブロ・サラビアの3人をぶつけただけで、一番守備負担が軽い中央にネイマールを置いたということだと思う。ネイマールは中盤へ引き、サイドへ開き、とにかくどこからでもボールを受けたら攻撃を起動させようとしていた。
アタランタはマンマークで守る。当然、どこへ行ってもネイマールはフリーになれない。攻撃のスイッチになっているネイマールが抑え込まれてしまえば、PSGは万事休すだった。しかし、ネイマールはかつて見たことがないぐらい奮闘する。
ドリブルでマーカーを抜きまくった。マンツーマン守備が1対1に負けると、そこから一気に瓦解する危険がある。1人抜かれるぐらいならカバーもできないわけではないが、2人目もやられるとマンツーマンだけに修正が難しい。そして、ネイマールはまさに2人を相手に勝てる個人能力の持ち主だった。
後半にムバッペが投入されると、アタランタは2人の強力な「個」を相手にしなければならなくなり、最後はネイマールが絡む2つのゴールを献上している。
現在のようにゾーンディフェンスが定着する以前、つまり1980年代までは強力な「個」が試合を決めていたものだ。ペレやディエゴ・マラドーナはファウル込みで厳しくマークされ、時には2人がかりでマークされた。スーパースターのドリブルで1対1に負けてしまうと、守備全体が危機に陥るのは明白だったからだ。ただ、普通の対応では抑えられないので、ファウルで止めていた。1人で無理なら2人でマークした。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。