「ここでダメなら先はない」 覚悟を決めたシンガポールの2年間、英雄に認められたスタイル

アルビレックス新潟シンガポールが喜ぶ様子【写真:©Albirex Niigata FC Singapore】
アルビレックス新潟シンガポールが喜ぶ様子【写真:©Albirex Niigata FC Singapore】

海外からJリーグを見てこみ上げた想い

 ただし質で凌駕しても、それが結果に直結するとは限らないのがサッカーだ。

「環境、ジャッジなども含めて、すべて受け入れてやり過ごせる順応性と覚悟が必要です。例えばJリーグなら選手が怪我や病気の時は、すぐにチームドクターが診てくれます。でもシンガポールでは、こちらから選手を病院へ連れて行って順番待ちをしなければならない。だから怪我や病気には細心の注意が要る。ピッチもスタジアムごとに異なるし、雷には過敏。過去に落雷で亡くなった人がいるそうで、警報ランプが回り始めたら、降雨も稲光もないのに即座に止められ、終電時間が迫れば中止になる。そういうことも笑って流せるようにならなければやっていけません」

 2年目にはシンガポール人の選手も2人加入。「やるべきことを整理してプレーして伝えたし、本人のキャラクターもあって違和感なく対応できた」という。

 一方で、改めて海の外からJリーグ中継を観ていると「あそこに戻って監督をやってみたい」との想いが込み上げた。

 こうして昨年、吉永は新潟と契約する。肩書きはアカデミーダイレクターだったが、クラブ内を見渡すと指揮官以外のS級ライセンス保持者は自分だけだった。(文中敬称略)

(最終回へ続く)

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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