すべてのシュートを止める―― 大迫敬介、“泥まみれ”の先に見据える最高GKへの挑戦
悔しさが激しいトレーニングのモチベーション「このまま何もせずに帰ったら…」
トレーニングシャツを着た選手は、大迫敬介ただ1人。ゴールマウスの前に立ち、彼は何度も何度も、シュートを受けた。横っ飛び。ジャンプ。GKコーチがシュートを放つたび、大迫は身体を芝生の上に叩きつけた。他の選手たちがみんなクラブハウスに引き上げた後もずっと、大迫のトレーニングは続いた。
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猛練習は、サンフレッチェ広島の伝統。特にGKは誰もが、徹底した反復練習で成長してきた。前川和也、下田崇、林卓人、西川周作。広島から日本代表に選出されたGKはみんな、持ち前の才能と数え切れないほどに泥まみれになった経験によって、栄光をつかんだ。大迫敬介ももちろん、その系譜にいる。
ただ2019年11月9日の大迫敬介のトレーニングは、かつてないほどにギラギラしていた。それは18年前、川口能活や楢﨑正剛らと並び称されていた下田崇という巨大な壁を乗り越えんと、青春のすべてをトレーニングに懸けていた林卓人のごとく、これ以上ないほどに汗と土にまみれた。
「凄い練習だったね」
そんな言葉をかけてみた。
いつもなら、弾けんばかりの笑顔を見せる20歳。しかし、彼は笑わない。
「本当に悔しい」
その理由は、紅白戦での結果にあった。この日、メンバーをシャッフルしながら行われた広島の紅白戦。30分ハーフでの戦いのなでトータル3点が生まれたのだが、そのすべてに大迫は絡んでしまった。林や廣永遼太郎といった他のGKがゴールに鍵をかけるなか、レギュラーとして試合に出ているはずの若者は、失点という屈辱に3度、まみれた。
「このままで、今日を終わりたくない。もし、このまま何もせずに帰ったら、絶対に後悔する」
その悔しさが、激しいトレーニングへのモチベーションである。