日本サッカー界も笑えない高校野球の“登板回避”問題 「勝利至上主義」は指導現場に蔓延

日本の一部現場での人道的ではない指導は、国際的にも伝わり始めている。

 サッカー界では、デットマール・クラマー氏の提唱で、他の競技に先駆けて指導者養成コースを起ち上げた。しかしそれでも現実には、勝利至上がはびこる高校の現場を中心に、同氏の理想とはかけ離れ、世界の趨勢から孤立した。だから現役時代の経験に依拠した発言に終始する張本氏が、的外れなコメントを繰り返すことは十分に想定の範囲である。むしろそれが分かっていて起用し続ける番組制作側に、こうしたスタンスへの根強いノスタルジーが透けて見えるから、この国のスポーツへの意識改革の前途多難ぶりが窺える。

 今年1月にカタールで行われたアジアカップでも、おそらく日本代表陣営は、アジアタイトルの重みと大迫勇也の故障のリスクを天秤にかけてプレーさせた。しかし所属のブレーメン側は、大迫にリスクを冒させた判断に不信感を抱いた。結局リスクを捉えるのに、「多少」と「NO」では天と地の相違が生じるわけだ。

 選手輸出国の日本は、育てて売り、代表戦になればクラブから選手を借りる立場に回る。まして日本の一部現場で人道的ではない指導が行われていることは、国際的にも伝わり始めている。ほんの少しでも常識に齟齬があると、やがてしわ寄せは選手に及ぶリスクが生まれる。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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